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シームレスだからこそモノの価値が高まっている、大阪万博は絶好の未来都市の実験場

noiz architectsパートナー 豊田 啓介 氏

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年10月7日
noiz architectsパートナー 豊田 啓介 氏

世界各地でスマートシティの構築プロジェクトが動き出し、米GoogleなどIT大手も新しい都市作りに参入する動きを見せています。そうした中で「このままでは日本の勝機はない」と警鐘を鳴らすのが建築家の豊田 啓介 氏。コンピュータを建築に積極的に利用する「コンピューテーショナル・デザイン」を推進する同氏は、「EXPO OSAKA/KANSAI 2025(大阪万博)」招致における会場計画アドバイザー/プレゼンターを務めました。大阪万博こそが最後のチャンスだとします。豊田氏が描く未来都市の姿を聞きました。(聞き手は志度 昌宏=DIGITAL X編集長)

(本稿は、『Society 5.0 -未来の社会をデザインする-』(JEITA:電子情報技術産業協会、2019年10月)からJEITAの許可を得て掲載しています)

──豊田さんは以前から「建築家が設計しているのは、もうビルなどの建物単体ではなくなってきた」と、おっしゃっています。

 建物は3次元のモノですが、デジタル化が進めば進むほど次元が拡張し、建物の周りにある“ふわふわ”したもの、つまり、さまざまな情報を同時に扱えるし、扱わなければなりません。建物に関係する種々の情報はもとより、時間やコストなどをデジタルな数値として記述できるようになってきたからです。

 すると新たな関係性が見えてくるので、建物が出発点にしても、その周辺を考えざるを得ず、それは街や都市へと広がっていかざるを得ないのです。

──スマートシティが世界で注目されているのも、そのためでしょうか。

 従来の意味での「スマートシティ」と言ってしまうと、少し方向性やビジョンが異なります。

 私は、さまざまな情報を数値で表現する建築手法「コンピューテーショナル・デザイン」に取り組んでいますが、そこでの数値の集まりは、実世界を写し取った「デジタルツイン」だと言えます。これはリアリティを持った存在であり、だからシミュレーションが可能です。

 ただ今後は実世界とデジタルツインがシームレスにつながっていきます。このシームレスな世界の扱い方は、まだ誰も分かっていないのです。これから構築されていく次世代のスマートシティにおいて、どんな変化が起こるのか。そこには大きな可能性が秘められています。

──シームレスになると何が起こるのでしょう。

 デジタルツインでは、モノと情報の因果関係が明確です。ところが、シミュレーションによって、その結果を実世界に反映させるようになると、モノが姿を変えるようになります。そこでは因果関係がひっくり返ります。企画、設計、製造といった一方通行の時間軸も崩れます。シームレス化が進めば、さまざまな工程そのものをデザインし直す必要があるのです。

 こうした点に気付いたのが米Googleなど大量のデータを保有する企業です。彼らは情報が強みを発揮できる領域を拡大しているわけですが、デジタルツインを分析して得られる“統計的なリアリティ”を実世界に反映させようとすれば、実世界そのものも理解できていならないという壁に突き当たった。だからこそ、カナダ・トロントのスマートシティプロジェクト「Waterfront Toronto」にGoogleが取り組むように、IT大手が都市作りに参入しているのです。

 彼らは都市を買い取ってでも、シームレスな時代に必要なモデルを作ろうとしていることに他なりません。

──日本でもスマートシティプロジェクトは増えています。

 デジタルツインやシームレスな世界感から見れば、日本の理解は3段階ぐらい遅れているといわざるを得ません。

 Waterfront Torontoの例を挙げましたが、これは現在の価値観が情報からモノへと戻ってきている証拠です。日本にとっては、ものづくり企業の価値が高まっているのですが、その価値を理解できていないため、情報を牛耳っている企業とコミュニケーションが図れません。かつて、絹織物の価値を認識できず、外国に言われるままに安価に輸出していったのと同じ構図です。

CEATEC 2019

10月15日(火)〜18日(金) 10:00〜17:00、幕張メッセ(千葉市美浜区)
  • 入場無料(全来場者登録入場制)
  • 詳しくはWebで ▶CEATEC 2019