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地域の課題を吸い上げて解決するための“街のディレクター”が必要に

東京大学大学院 教授/「日立東大ラボ」ラボ長 出口 敦 氏

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年10月8日

──経済発展と社会課題の解決の両立はどうでしょうか。

 経済が発展すると社会課題は増えます。それだけに両者の両立を図るのは難しい。

 たとえば、社会課題の1つに地球温暖化の防止があります。これを図る指標は人口1人当たりのCO2(二酸化炭素)排出量ですが、これだけを見れば、どんなに暑くてもエアコンの設定温度を28℃に固定するなど“ガマン”を強いる取り組みが推奨されます。これを次のように因数分解するとどうでしょう。

 最初の総エネルギー消費量当たりのCO2排出量は、火力発電を太陽光発電に変えるなど構造転換を図るもので、これは政策などの取り組みです。次の総活動量当たりの総エネルギー消費量は、ビルの性能などイノベーションに関する項であり、ここが技術開発の領域です。そして人口当たりの総活動量は、まさにQoLを指しています。

 政策提言や技術開発が進めばQoLを高めても1人当たりのCO2排出量は下がります。ガマンするしかないと思っていたことが、ガマンしなくても良くなります。社会課題を因数分解し、技術のあり方を明確に定めることが、Society 5.0が目指す「テクノロジーを使った社会課題の解決」につながるのです。

 従来の都市計画における評価指標は、統計値などの平均値しかありませんでした。これに対し、センサーを活用するスマートシティでは、1人ひとりの行動や満足度をリアルタイムに“生け捕る”ことができるようになります。人のニーズにはバラツキがあることを前提に、バラツキがあるまま把握し、多様な選択肢を用意することが、Society 5.0につながってていくでしょう。

──多種多様なデータを扱うための基盤も必要になります。

 データ連携基盤は不可欠です。これまでは交通、健康、不動産、天気など、それぞれが分野別に取得・管理されてきました。Society 5.0では、分野横断で利用できなければなりません。「超スマート社会」の“超”は、分野横断の意味です。データ連携基盤に加え、データを読み取るリテラシーも重要になってきます。データを読み誤っては、誤った対応策を考えてしまうからです。

 さらに、Society 5.0に取り組む人たちも分野横断にならなければなりません。日立東大ラボでは、心理学や哲学の先生方とも議論しています。技術で社会課題を解決するためには、その技術が人間社会に受け入れられるかどうかといった視点も重要になってきます。つまり、すべてを人間のために考えると言うことです。

──社会課題の因数分解は興味深いですが、技術偏重になってしまっても困ります。

 その通りです。テクノロジーだけでは、良い街は作れません。

 地域の課題を吸い上げ、その解決に導くためには、地域のセンター機能が必要だと考えます。その機能を私は「H.O.P.E」と呼んでいます。(1)Human Resource(人材育成)、(2)Open Platform(データ利用環境)、(3)Public Private Academia Partnership & Governance(官民学連携)、(4)Executive Plan(実施計画/ビジョンとストラテジー)の頭文字を取ったものです。

 これら4つの機能を持つ組織や仕組みが、Society 5.0の実現には不可欠です。

出口 敦(でぐち・あつし)

東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻 教授。専門は、都市計画学、都市デザイン学。千葉県柏市の柏の葉において、公・民・学の連携で街作りを進める「UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)」のセンター長や、日立製作所と東大による「産学共創」拠点である「日立東大ラボ」のラボ長を務める。

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