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  • Society 5.0への道

地域の課題を吸い上げて解決するための“街のディレクター”が必要に

東京大学大学院 教授/「日立東大ラボ」ラボ長 出口 敦 氏

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年10月8日
東京大学大学院 教授/「日立東大ラボ」ラボ長の出口 敦 氏

「Society 5.0(超スマート社会)」は、2050年を目標に、まずは2030年に具体的な姿を創り出そうする日本の成長戦略です。しかし、10年、30年の先の都市の姿であるSociety 5.0に向けて、私たちはどう取り組んで行けば良いのでしょうか。都市計画や都市デザインが専門で、日立製作所と東大による「産学共創」拠点「日立東大ラボ」のラボ長でもある東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻の出口 敦 教授に聞きました。(聞き手は志度 昌宏=DIGITAL X編集長)

(本稿は、『Society 5.0 -未来の社会をデザインする-』(JEITA:電子情報技術産業協会、2019年10月)からJEITAの許可を得て掲載しています)

──「Society 5.0」は2016年1月に閣議決定された「第5次科学技術基本計画」において提唱されました。出口先生がラボ長を務められる「日立東大ラボ」の開設は同年6月です。

 日立東大ラボは、スマートシティの取り組みを本格化させるために設立しました。東京大学と日立製作所が合意し「産学共創」モデルを採用した最初の拠点です。日本は今、スマートシティの第2次ブームにあると言えますが、期待していた一方で、第2次ブームがこれほど早くやってくるとは思っていませんでした。

 ラボ設立の問題意識は、「Society 5.0」の定義にあります。「サイバー(仮想空間)とフィジカル(物理空間)の融合を図り、経済発展と社会課題解決を両立させ、人間中心の社会を実現する」といったことが書かれていますが、サイバーとフィジカルの融合とは何か、経済発展と社会課題の解決は両立できるのか、人間中心とはどんな社会なのか、こうした疑問を解消しなければSociety 5.0に具体的には取り組めません。

──この3年間で、どんな研究成果が得られましたか。

 まずサイバーとフィジカルの融合についてですが、これはデータ駆動型の新たな社会の仕組みを作ろうということです。

 街のデータには、属人的なデータのほか、エネルギーや交通など社会インフラが生成するデータ、ビルなどの3次元の空間データなどがあります。ですが、すべてがデータ化されているわけではありません。都市のデータの作り方や、個人情報の扱い方なども大きな課題です。さらに、集めたデータから社会課題を解決し、その結果を社会に戻すまでの仕組みが必要です。

 データ駆動型の社会では、社会実験の結果が有効であれば採用するとか、渋滞の発生をドライバーに伝えて回避行動を促すなど、従来とは異なるアプローチが可能になります。マスタープランも最初からガチガチに固めなくても良い領域がでてくるでしょう。

 次に順序が変わりますが、人間中心とは、都市構造を現在の「ネットワーク型」から「自律分散型」に変えながら、QoL(生活の質)を高めるために多様な選択ができるようにすることです。

 QoLの指標として日立東大ラボでは現在は、可処分時間を想定しています。可処分時間を示すデータは取得が難しいのですが、今後のスマートシティでは、そうしたデータも取得可能になると期待しています。

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10月15日(火)〜18日(金) 10:00〜17:00、幕張メッセ(千葉市美浜区)
  • 入場無料(全来場者登録入場制)
  • 詳しくはWebで ▶CEATEC 2019