- Column
- Society 5.0への道
ロボットは人の共感を呼ぶ存在に、テクノロジーによる課題解決こそがデザイン
ユカイ工学 CEO 青木 俊介 氏
「Society 5.0」において人間と向かい合っているであろう存在の1つに「ロボット」があります。アニメなどにも登場するロボットは、さまざまな形や性格をもっていますし、開発中のロボットの姿もさまざまです。ロボットの開発者は、何を考えながら開発に取り組んでいるのでしょうか。ロボット開発者で、グッドデザイン賞の審査員も務める青木 俊介 氏に、ロボットに込める思いや、デザインの価値などを聞きました。(聞き手は志度 昌宏=DIGITAL X編集長)
(本稿は、『Society 5.0 -未来の社会をデザインする-』(JEITA:電子情報技術産業協会、2019年10月)からJEITAの許可を得て掲載しています)
──青木さんは、デジタルコンテンツの制作で知られるチームラボを大学時代に立ち上げた後に、ロボティクスベンチャーを立ち上げました。青木さんにとって、ロボットとは、どういう存在ですか。
実は「ロボット」の定義ははっきりしていません。学会などに参加しても、AI(人工知能)を作るためのソフトウェア工学の専門家もいれば、心理学の専門家もいる。あらゆる分野の人たちが、それぞれの叡智を持ち寄って作ろうとしているのがロボットであり、そのイメージは、さまざまです。
そうした中で私がロボットだとイメージしているのは「人の共感を呼ぶ存在」です。見た目や、しぐさ、なでたときの感触などが、人に受け入れられ、生活を楽しくする存在でなければならないと考えています。
工場などで稼働している工業用ロボットは、効率や自動化のための仕組みです、アンドロイドなどは人間を真似ようとしており、秘書的な役割を期待しています。しかし、凄く優秀なアンドロイドが家にいたら、かえって気を使ってしまうのではないでしょうか。それは実家のお母さんが常にそばにいるような感じがし癒やされません。
またアンドロイドなどの実現には、まだまだコストがかかります。新しいものが好きな人や、テクノロジーが好きな人だけでなく、より多くの人に受け入れられるためには、機能がシンプルであること、手が届く価格帯で提供できることなども満たす必要があります。
──青木さんが考えた「BOCCO(ボッコ)」も、おもちゃのような出で立ちです。
BOCCOの原点は。私が自分の子どものためにほしいと思ったロボットです。我が家は共働きで、子どもが小学校に入るタイミングでした。学校が終わると1人で留守番するわけですが、スマートフォンを与えることにも抵抗があったので、簡単な仕組みで、子どもに安心感を与えられるロボットをデザインした。それがBOCCOです。
──お子さんが小学生になるタイミングでなければBOCCOは生まれなかったわけですね。
そうかもしれませんが、当時はIoT(モノのインターネット)が話題になり始めたころで、私も「IoTを使った製品を企画したい」と考えていた時期でした。近距離通信のためのBluetoothの通信モジュールなども価格がこなれ入手しやすくなっていたことも重なっています。
ニーズを製品という形にするためには、技術トレンドとも足並みがそろっていないと実現できません。最先端のテクノロジーだけでもダメです。たとえば、今のスマートフォンの多くには加速度センサーが搭載されていますが、この加速度センサーも、クルマへのエアバック搭載が当たり前になったことで安価になりました。
テクノロジーを使った製品開発では、こうした技術トレンドを把握しておかねばなりません。