- Column
- Society 5.0への道
竹中工務店、より「まちづくり」を意識した7テーマをCEATEC 2020 ONLINEに展示
パートナーシップ強化でニューノーマル時代への適応目指す
まちづくりに必要な仕掛けにフォーカス
−−具体的には、どんな展示でしょうか
政井 全体として7つのテーマを挙げています。(1)デジタルツインを実現するまちづくり、(2)新エネ×創エネによる機会創出、(3)MACHInnovation®/スマートコミュニティ、(4)AIによる活きる建築、(5)生きる場所をつくる健築、(6)木のまちづくり、(7)ロボット(モビリティ)共生です(図1)。
全体としては、2019年よりも「まちづくり」を意識しています。特に、オンライン開催のため、昨年のようなVR(仮想現実)ゴーグルを使った体験型展示などができないため、個別の技術解説よりも「まちづくりのために必要な仕掛け」などにフォーカスしています。「木のまちづくり」で木造建築に触れているのも、そうした理由からです。
ニューノーマルの観点の出展が、MACHInnovation/スマートコミュニティになります。当社では自治体との取り組みも進めていますが、島根県雲南市との協力はその1つです。
奥田 雲南市は、日本が抱える「高齢化」社会の“縮図”だとも言われています。雲南市を1つのモデルに、当社としては自治体や企業と連携しながら、いち早く問題解決に取り組んでいきたいと考えています。
政井 雲南市では、お年寄りが集まったコミュニティに対し、1人ひとりの表情を画像解析で分析・数値化することで、催事の企画に活かすといったことが始まっています。地域コミュニティに集まる住民の「笑顔を見える化」しコミュニティの健康度を分析することで、次につなげようとする考え方です。
雲南市は、平成の大合併を契機に住民自治の活動を開始しており、全国から注目されています。地域住民自らが地域のために公務員の役目を務めるような状況にあります。過疎地域の人手不足を埋める意味でも、こうした「見える化」技術による笑顔あふれるコミュニティの仕組みが、社会を支えていくことにつながるのではないでしょうか。
奥田 ロボットに関する展示も予定しています。最近はビル内でロボットを使う取り組みが検討され始めています。しかし、警備用や清掃用、配達用など、種々のロボットが同じ建物内で稼働する場合には、これらのロボットを統合管理するための基盤としての「ロボットOS」が必要になってくるのではないかと考えています。
実際の展示では、7つのテーマに対し、それぞれの担当者がプレゼンテーションをする動画を軸に展開しています。動画と並行してWeb上の資料も見ていただき、そして疑問があれば、問い合わせていただけるようにしています。
政井 ここは、今回オンラインになることで相当考えたのですが、やはり担当者の肉声による解説が肝だと思い、動画を用意しました。
ビルから街へと発展させる基盤となる「ビルコミ」
−−ニューノーマルに向けたコンセプトについて、詳しくうかがえますか。
奥田 我々は、何年も前から新型コロナによるニューノーマルの到来を予想して技術開発してきた訳ではありませんが、当社が保有する技術が、ニューノーマルにどう活かせるかというアプローチで望んでいます。
当社ではリアルな世界をBIMデータに基づいてサイバー世界に再現する「デジタルツイン」である「ミラーワールド」などの技術に早くから取り組んできました。また今後は、箱物である建築に、どのようなサービス(価値)を付加できるかがカギになってくると考えてきました。そのキーになるのが、クラウドを利用した各種データの活用だととらえています。
そのため当社では、早くからクラウドを利用したビル機能の高度化にも取り組んできました。それが、当社が開発したビルコミュニケーションシステムの「ビルコミ」です。
ビルコミは、建物内にある各種データをクラウドに送り、クラウド上のアプリケーションで必要な処理をして建物の制御に利用することができます。特に最近は、センサー類が安価になりビルへの組み込みが容易になってきたことで、さまざまなデータを取得しやすくなりました。
今後は、クラウドを利用し、ビル内のデータのみならず、建物外部のデータも活用することで、スマートビルと言われる建物のニーズが増えてくると思っています。このようなクラウドを活用したスマートビルの実績では、当社は現在、業界のトップランナーであると自負しています。
こうしたデータは、ビル内はもちろん、まちというレベルでも沢山集められるようになってくるでしょう。そしてまちを構成しているのは建物であるので、「スマートビル」の発想を「スマートシティ」へ、どう発展させられるかが大きな課題だと感じています。その基盤になるのがビルコミなのです(図2)。
−−ビルコミとは、具体的にどんなシステムですか?
政井 一言で言えば「ビルのOS(基本ソフトウェア)」です。2011年~2012年の頃を思い出してみてください。当時は東日本大震災による原発事故の直後で、電力不足に伴う節電が大きな問題になっていました。快適な空調を維持したまま節電するには、もっとセンサーで情報を集めて分析し、もっときめ細かな建物設備の運転管理をしなければなりませんでした。
集めるデータには、ビルの内部のデータだけでなく、天気予報など外部からのデータが含まれます。ヒトに関する情報もプライバシーに配慮しながら集めなければなりません。そしてデータ量は、とにかく膨大になっていきます。
その莫大なデータを欠損なくクラウドに集約させるのは意外と大変です。ビルコミでは、これをメッセージング型の通信プロトコルである「MQTT」などを用いて実現しています。