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  • これだけは知っておきたいデジタルマーケティングの基本

Disruptor(破壊者)ほど顧客中心、デジタルネイティブな生活者の利便性をとことん追求【第1回】

大山 俊哉(ADKホールディングス 執行役員・グループCDO)
2019年5月30日

次々に登場した「オンラインサービス」は世界を壊したいわけではない

 デジタルエコノミーの先頭を走る、eコマースの米Amazon.comや配車サービスの米Uber Technologiesは時に「Disruptor(破壊者)」と呼ばれる(写真3)。長年続いてきた実ビジネスを破壊してきたからだ。だが彼らは何も、世界を壊したくて壊しているわけではない。ネット × スマホの時代にあって、デジタルネイティブな生活者の利便性をとことん追求していった結果、新たなサービスを生み出しただけである。

写真3:eコマースの米Amazon.comは物流網の整備にも余念がない。(c) imageBROKER/StefanZiese/amanaimages

 たとえばAmazonのオンラインストは、書店では決して手に入らないマイナーな(希少な)本や、読者それぞれが最も読みたい本を的確に手にするニーズを満たすために生まれた。しかも本は自宅まで届く。これでは既存の書店に勝ち目はない。同様に、いつでも、どこでも多くの音楽を聴きたいというニーズに答えたのが米Appleの「iTune」だ。CDやDVDというモノとしての販売やレンタルが縮小したのは必然である。

 オンライン動画配信で世界を席巻しつつある米Netflixは、オンラインで注文するDVDのレンタルショップから始まった。店舗まで借りに行くのが面倒な顧客相手にDVDをまとめて送り、見たら返却してもらうモデルだった。その後、一定額を支払えば“見放題”のサービスを始めるが、それでも顧客ニーズに応えられないとして、自らがプラットフォームを構築し動画を配信するビジネスモデルになったのだ。

 民泊サービスの米Airbnbも自宅アパートの近くで国際会議が開かれた際に、ホテルの予約が取れない人に部屋を貸したのがビジネスの始まりという。泊まりたい人のニーズと家を貸したい人のニーズを適正な価格でマッチングさせた。

便利なサービスの裏側で駆使されているデジタルマーケティング

 このように、ここ10年余りで、さまざまなオンラインサービスが登場してきた。米Googleが誕生したのが1989年、米Facebookは2004年の誕生だ。彼らのサービスは、私たちの生活をますます便利にする。以前は、それがなくてもそれほど不便に感じなかったのに、彼らのサービスを使ってしまったら、それらなしには生きていけないほどになった。

 そして彼らは「プラットフォーマー」と呼ばれるようになり、データを“独占”し始めた。無料あるいは安価にサービスやプロダクトを提供する見返りに、我々生活者のデータを獲得し、彼ら自身のマーケティング精度の向上やターゲティングによる広告収入の獲得、他社とのアライアンスで収益を得るというモデルを打ち立てた。

 Facebookでの情報漏えいや、EU(欧州連合)のGDPR(一般データ保護規制)施行などにより個人データの利用条件は厳しくなった。とはいえ、我々生活者のデータは今後も、ビジネスやマーケティングにおいて実際の金以上の価値を生みつづけるだろう。

 データをさまざまな価値に変えるための仕組みの一つがデジタルマーケティングである。単にネット上で広告を表示するというだけでなく、顧客との関係性の構築や、顧客の誘導、新たなサービス市場の創造などを可能にする。

 先にDisrupterは、デジタルネイティブな生活者の利便性をとことん追求していると紹介した。彼らが提供する配車やマッチングなどの具体的なサービスや、スマホアプリのデザインなどに目が奪われがちだが、その裏側で彼らはデジタルマーケティングを駆使してもいる。

 我々は、各種サービスのほとんどを無料で、何気なく使っている。結果、そのビジネスモデルや裏側で動作している仕組みまで考えていないのが普通だろう。しかし、少し考えてみれば、不思議なことが起こっている。

 たとえば「なぜ自宅のPCで検索した商品の広告がスマホの画面に出てくるのか」「なぜ自宅や勤務地の近くにあるお店の広告だけが出てくるのか」「なぜAmazon.comは“ほしい”と思っている本や商品を薦めてくるのか」「どうやって無人のコンビニ店舗は代金を精算しているのか」「どうやってアミューズメント施設や球場はチケット代金を日々変えているのか」などなどだ。

 DXに取り組み新たなビジネスモデルを想像しようとするならば、これらデジタルマーケティングに分類される仕組みを一定レベル以上には理解しておく必要がある。本連載では、ネット上で起こっているビジネスの裏側をわかりやすく解説し、その重要な要素であるデータやテクノロジーがどのように使われているのか考えていきたい。

大山 俊哉(おおやま・としや)

ADKホールディングス執行役員・グループCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)。1984年電通入社。2014年に同社執行役員に就任し、デジタルマーケティング、インターネットメディア、データソリューション、プロモーション領域の責任者としてビジネスモデルを改革。2016年7月に電通デジタルを設立し初代代表取締役CEOに就任。2019年1月より現職。