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  • データ活用で失敗しないための3つの条件〔ビジネス部門編〕

データ活用のプロジェクトサイクルを確立する【条件3】

浦谷 達也、阿部田 将史(日立製作所 社会システム事業部)
2019年10月7日

可視化の次の段階へ

 可視化から一歩進んだ例として、落雷による装置故障予測を紹介します。電力会社の業務の1つに、落雷発生時に装置が故障していないかどうかを見回る「設備巡視」があります。

 設備巡視はこれまで、作業員の経験や勘で、巡視する設備の優先度を決めていましたが、より効率的で早急な復旧が求められていました。そこで、目標は「落雷発生後の設備巡視業務の効率化による停電の防止と早期復旧」としました。

 分析課題は「落雷発生後の設備故障リスクの可視化」です。落雷の位置情報と、設備の稼働情報、保守業務の情報を使って統計分析をすることで、設備の故障リスクを予測できることが分かりました(図3)。

図3:落雷リスク分析システムのイメージ

 リスク分析の結果をシステム画面の地図上にリスクごとに色分けし、落雷情報とともに可視化しました。これにより、巡視効率が高まり、停電防止と早期復旧を実現しました(図4)。この仕組みであれば、経験豊富なベテラン作業員でなくても、巡視業務に効率的に取り組めるようになりました。

図4:航空写真上に落雷地点と設備故障リスクを可視化した例

施策を打ったら必ず効果を分析する

 データ活用は「分析をすれば終わり」ではありません。データ活用プロセスにおいては、データ活用の施策を実行した後に必ず効果を分析します。当たり前のことのように思えますが、意外に実施されていません。

 データ活用の目的が売り上げ向上であれば、施策を打った場合の売り上げと施策を打っていない場合の売り上げを比較し、施策の効果があるかどうかを検証します。このとき、比較対象になるグループの分け方には注意が必要です。

 たとえば、あるゲームにおいて、ユーザー番号「0~999」を施策対象のグループ、ユーザー番号「1000~1999」を施策の対象外のグループとしてテストするとしましょう。このとき、ユーザー番号がランダムに振られていれば問題ありませんが、先着順などで振られていると「早期の登録者ほど、よく課金する」のようなグループ間の差が、もともと存在する可能性があります。グループ分けはランダムに振り分けなければなりません。

 ゲームやWebサービスなどでは、施策を打っているグループとそうでないグループの両方を同時に検証できます。ですが、運用を一括でしか変更できない工場のラインや、価格が高く同時に仕入れられない商品の売り場など、さまざまな理由から良いグループ分けができないことがあります。その場合は、比較対象に影響を与える施策以外の要因を排除して分析する必要があります。

 具体的には、季節性があるようにもかかわらず両グループの反応を時期を分けて比較した場合、数値の違いが季節要因なのか施策の効果なのか、それともただのノイズなのかは一見しただけではわからないからです。

 施策自体に効果がない、あるいは逆効果であるにも関わらず、ノイズや季節要因による効果を施策による効果だと誤認識して施策を継続してしまったり、季節要因やノイズによって施策の効果なしと判断し施策を取りやめてしまったりと、効果分析を怠ると、それまでの分析すべてが無駄になりかねません。