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  • データ活用で失敗しないための3つの条件〔ビジネス部門編〕

目的を定めデータドリブンな文化を醸成する【条件1】

浦谷 達也、阿部田 将史(日立製作所 社会システム事業部)
2019年8月5日

「データさえあればデータ分析によって何か面白いことがわかるのではないか」−−。こんな期待から取り組み始めたデータ活用にもかかわらず、思ったような結果につながらないケースが少なくありません。なぜ、そうした失敗に陥ってしまうのでしょうか。今回は、データ活用プロジェクトを立ち上げる際の失敗しない条件を説明します。

 ビッグデータ活用や、昨今のAI(人工知能)/IoT(Internet of Things:モノのインターネット)ブームの中、データ活用に取り組もうとプロジェクトを立ち上げる企業が増えています。「データドリブン」や「データ駆動型」という表現も目に付きます。データドリブンとは、データに基づいて意思決定を下したりアクションを起こしたりすることです。

 一方で、プロジェクトを立ち上げてみたものの、なかなか成果が出ないというケースも少なくありません。データ分析の失敗例としてよくあるのは、「データの収集・分析基盤の整備にばかり時間がとられ、肝心の分析結果がいつになっても出てこない」あるいは「分析をしてみたものの、次に何をすればいいのかわからない」という状況です。つまり、分析の準備に時間をかけ過ぎたり、分析結果を行動につなげられなかったりしてしまうのです。

 これらの失敗は、「データ分析によって何を実現したいのか」という目的が不明確であることと、データ活用シーンを十分に検討していないことから生じます。では、どのように進めればよいのでしょうか。

ビジネスサイドのKPIを明確にする

 まずは、事業部門などビジネスサイドの目的を明確にすることです。データ活用プロジェクトのゴールは、データの分析結果を意思決定につなげ、ビジネスの成果を出すことです。そもそも、どんな成果を出したいかという目的が明確でなければ、データを分析してもグラフやレポートが五月雨に出てくるだけで、ビジネスには活かせません。

 ビジネスサイドの目的は、「設備稼働率の向上と保守コストの低減」といったように、できるだけ具体的に定めます。そして、その目的達成のためのKPI(重要業績評価指標)を設定し、アクションプランを計画します。そのうえで、アクションプランの中で、どのビジネス課題にデータ分析を用いれば効果が出そうかを検討します(図1)。

図1:データ分析の使いどころを整理する。アクションプランのどの場面でデータを分析するかまで検討できるとよい

 データ分析の使いどころは、分析に詳しいコンサルタントやデータサイエンティストと協力して検討するとよいでしょう。その方法については第2回で解説します。

 使いどころを決め、いよいよ分析に着手するという時に注意しなければならないのは、手段の目的化、すなわちデータ分析自体が目的になってしまわないことです。ビジネス課題を解決するには、必ずしもデータ分析が必須というわけではありません。もしかすると、データ分析は不要という結論になるかもしれませんし、データ分析が必要であったとしても、非常に簡単な分析で済むかもしれません。

 にもかからず最初から、広範囲にデータを収集・分析しようと考え、そのための仕組みを構築・整備しようとすると、時間とコストばかりがかかってしまいます。さらに、その仕組みが構築できた時にはビジネス課題がすでに変わってしまっていて、それに併せて仕組みを改良するなど、環境整備が永遠に終わらないということになりかねません。データ分析の使いどころを見極め、スモールスタートで始めれば時間とコストの浪費を避けられます。

 データの活用シーンも明確にしておく必要があります。分析結果を行動につなげられない状態に陥ってしまうのは、分析結果をどのようにして現場の意思決定につなげるのかを検討できていないからです。分析に着手する前に、データ活用シーンを検討しておくことで、分析結果をアクションにスムーズにつなげられます。