- Column
- ドローンの業務活用を考えるための基礎知識
労働人口減少でドローン活躍の場が広がる【第1回】
ドローン活用が待ったなしの社会インフラ点検業務
測量に加え現在の日本市場で、ドローンが最も期待されている領域は社会インフラの点検業務です(写真1)。
高度成長期に建設された整備された日本の社会インフラは、現在では老朽化が進み、保全・補修が喫緊の課題になっています。健全性の確認や補修計画を立てるためには当然、点検業務が不可欠です。
一方で、点検業務を担う人手の不足や作業者の高齢化といった問題があります。橋梁や道路、上下水道など、さまざまな社会インフラが築50年を迎えるのと同時に、点検・補修に携わる建設業従事者の約半数が50歳以上になっています。さらに数年後には、その多くが主に高齢を理由に離職すると言われています。
インフラ維持管理の重要性を示す象徴的な例として、2012年に起こった中央自動車道笹子トンネルでの天井板落下事故が挙げられます。9人の死者を出す痛ましい事故です。この事故では、設備の老朽化と共に点検の不徹底も原因の1つではないかと指摘されました。これをきっかけに道路法が改正され、橋やトンネルは5年に1度の点検が義務化されたのです。
しかし、高所作業を伴う通信・送電鉄塔や、河川にかかる長大な橋梁の点検は、人が実施しようとすれば、多大な時間とコスト、特殊な重機、そして危険な作業を必要とします。点検業務の効率化・省人化は不可欠であり、差し迫った社会課題の1つです。
社会インフラは“高い・長い・広い”といった特徴を持っています。その点検において、空を飛べるドローンは有利なうえ、自動航行技術を使えば省人化・無人化が可能になります。カメラや、さまざまなセンサーの搭載により、多様な点検データを効率的に収集できます。
さらに今後は、急速に発展するAI(人工知能)によるデータ分析を組み合わせれば、ドローンが収集したデータから異常や変状を自動的に検出でき、点検業務全体の自動化も夢ではありません。
防災と防犯、似ているようでも実運用に差が
ドローン活用の期待が大きい、もう1つの領域が災害対応です。2016年4月14日、熊本を襲った地震は、ドローン元年以降最初に発生した大きな震災でした。当時の報道で、ドローンによる空撮映像を目にされた方も多いでしょう。
毎年のように大きな災害に見舞われる日本ですが、災害による被害を最小限に食い止めるためには、発災からなるべく早く被災地の状況を行政・自治体が把握することが重要です。2次災害の危険がある被災地での調査活動にとって、ドローンはうってつけのツールと言えます。
現在、ドローンが使われているのは、空撮による被災地の状況把握や、航空写真測量による土砂崩れなどの規模を測定する業務が中心です。今後は、被災者に避難を呼びかける災害時広報や、孤立した医療機関へ医薬品などを搬送する実験など、より幅広い活用が望まれています(写真2)。
防災に並び期待される領域に防犯があります。慢性的な人手不足に悩む警備業界では、早くからドローンの警備業務への活用が検討されてきましたが、意外にもなかなか実用化が進んでいないのが実状です。
2018年に公開されたSF映画『レディプレーヤー1』などでは、ドローンが人々を監視する社会が描かれています。しかし長時間、継続して監視を続けなくてはならない警備業務は、実は航続時間が長くても数十分しかないドローンにとっては苦手とする領域なのです。
疲れ知らずのロボットであるドローンは、上空からの俯瞰する視点や機動性を持ち、高度な警備監視ができる「空飛ぶ監視カメラ」になり得る可能性は秘めています。業務実装に向けては運用面での進化が求められます。具体的には、既存の固定カメラやセンサーと連携して滞空時間を節約したり、ロボット掃除機のように作業から充電までを自動で実行する基地システムと組み合わせたりです(写真3)。
今回は、ドローンの活用が進む業務領域をご紹介しました。「活用が進む」と言っても、冒頭に示したように、まだまだ実験の域を出ない領域が多いのも事実です。その理由を理解するために次回は、ドローンが得意なこと・苦手なことを考え、それらを踏まえた業務実装における留意点についてお話しします。
吉井 太郎(よしい・たろう)
センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト 兼 サービス企画部長。ソニー、ソニーコミュニケーションネットワーク、IMJモバイルを経て、2008年より日本マイクロソフトにてゲーム機「Xbox」のマーケティングを担当。2015年よりグリーのヘルスケア領域における新規事業のサービス企画マネージャーを担当した。2016年5月より現職。