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- ドローンの業務活用を考えるための基礎知識
ドローンの未来はSociety 5.0を目指す【第7回】
ドローンの未来3:エアモビリティ
ドローンの未来として必ず話題に上がるのが「エアモビリティ(空飛ぶ車)」です(写真3)。筆者の見解としては、ドローンの定義が無人航空機である以上、有人機である空飛ぶ車やパッセンジャードローンは、ドローンに含まれないのですが、そこには単純な定義の問題ではない違いが存在すると考えています。
確かにエアモビリティは、人々の移動や物流に革新をもたらす画期的な概念です。ですが、無人であることを前提とするドローンとは全く別のものとしてとらえる必要があります。
誤解を恐れずに言えば、「落ちても人が死なない」運用が可能なドローンと、「人が搭乗する」エアモビリティとでは、求められる安全性や盛り込まれるべき技術、運用方法、法規制など、すべてが異なるからです。基本的にエアモビリティは、既存の有人機をベースに開発・運用されるべきだと考えます。
ただしドローンの急速な進化は、マルチローター機の飛行制御など、エアモビリティへの応用、低コスト化に大きく貢献します。誰もが自由に空を飛ぶエアモビリティ社会が実現される日は、思ったより遠い未来ではないのかもしれません。
日本政府が描く未来社会「Society 5.0」構想はドローンの追い風に
筆者が考えるドローンの未来として3つの領域を紹介しました。一方、政府が主導するドローン産業の未来予想図として代表的なものに、経済産業省が作成した『空の産業革命に向けたロードマップ』があります。
これは、官民協議会が2016年4月に策定した『小型無人機の利活用と技術開発のロードマップ』をベースにしたもの。官民協議会のロードマップは、安倍 晋三 首相が2015年11月、第2回未来投資に向けた官民対話において、「早ければ3年以内にドローンを使った荷物配送を可能にすることを目指す」と発言したことを受けて策定されています。
空の産業革命に向けたロードマップは、手動/自動、目視内/目視外などを基準に「飛行レベル1~4」を規定。物流や災害対応、農業、インフラ維持管理といった産業別のマイルストーンも設定しています。
筆者個人の印象では、このロードマップは、制定のきっかけからして、やや荷物配送、いわゆるドローン物流に寄った内容になっています。環境整備と技術開発の目標設定にも、その色が濃く表れているように感じます。
このロードマップに対し、ドローンの業務活用という文脈で筆者が注目しているのが、内閣府が提唱する「Society 5.0(超スマート社会)」構想です(図1)。
Society 5.0は、デジタル技術を活用した新たな社会の姿として提唱されている概念です。狩猟採集社会を「Society 1.0」として、農耕社会、工業社会、情報社会に続く社会として、バージョン「5.0」が振られています。
その定義は、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」です。
これはまさに、フィジカル空間からデータを取得・解析し、サイバー空間に蓄積、そして、そのデータを基にフィジカル空間で業務を遂行するという“未来のドローン”にぴったりの構想ではないでしょうか?
Society 5.0は、ドローンの活用にとどまらず、社会全体の変革を目指す構想です。そこでは、ドローンをはじめ、ロボットやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)など、現実(フィジカル空間)をデータ化する技術が強く意識されています。
とかく先進技術に対する動きが遅いと指摘される日本政府ですが、こうした未来像を構想していることは、ドローンの産業活用にとって追い風になるでしょう。
ドローンの産業活用は、まだ始まったばかりです。その未来には多くの可能性が秘められています。筆者の所属会社のスローガンは、「社会をデジタル化し課題解決する」です。これを実現し得る技術としてドローン活用に取り組んでいます。本連載が、みなさまの、そして社会の課題解決の一助になれば幸甚です。
吉井 太郎(よしい・たろう)
センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト。ソニー、ソニーコミュニケーションネットワーク、IMJモバイルを経て、2008年より日本マイクロソフトにてゲーム機「Xbox」のマーケティングを担当。2015年よりグリーのヘルスケア領域における新規事業のサービス企画マネージャーを担当した。2016年5月より現職。