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  • 欧州発の都市OS「FIWARE」の姿

スマートシティを支える「都市OS」に求められる要件【第2回】

田代 統(NEC クロスインダストリー企画本部マネージャー)
2020年5月20日

「FIWARE(ファイウェア)」はEU(欧州連合)において、官民連携投資によって開発・実証された次世代インターネット基盤ソフトウェアです。第1回では、FIWAREが生まれた経緯から、オープンAPIによるデータ連携などFIWAREの特徴を説明しました。今回は、FIWAREの特徴付けているテクノロジーを説明する前に「都市OS」に求められる要件を考えてみましょう。

 前回、さまざまな新しいサービスを提供するために開発されたFIWAREに対し「都市OS」としての期待が高まっていると紹介しました。では、都市OSには、どのような役割が求められているのでしょうか。

内閣府が「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」を公開

 日本においては2020年3月、内閣府の事業で整備された「スマートシティリファレンスアーキクチャ」のホワイトペーパーが公開されました。スマートシティリファレンスアーキテクチャは、スマートシティの設計図に当たります。戦略やルール、組織など非ITの領域も対象に含みます。

 図1は、スマートシティリファレンスアーキクチャの概念図です。そのコンセプトは、(1)利用者中心の原則、(2)都市マネジメントの役割、(3)都市OSの役割、(4)相互運用の重要性の4点です。

図1:「スマートシティリファレンスアーキクチャ」の概念図(出所:『スマートシティリファレンスアーキテクチャ ホワイトペーパー』、内閣府)

 スマートシティでは、住民や企業、観光客といった利用者に対し、防災やMaaS(Mobility as a Service)といった都市に必要なサービスを提供します。これらのサービスを持続的に運営していくためには、運営組織やビジネスモデルを含めて地域全体をマネジメントする「都市マネジメント」と、IT軸を担う「都市オペレーティングシステム(都市OS)」の両輪が重要だとされています。

スマートシティを実現にはデータ連携が不可欠

 スマートシティは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)で収集した街のデータや、行政が持つオープンデータなどから街の実態を把握し、住民を中心とした社会システムのあり方そのものを変革する取り組みです。デジタルテクノロジーを活用することで、地域課題の解決や、新たな価値の創出による経済循環の促進が期待されています。

 これまでも、スマートシティの取り組みは進められてきましたが、実証の域を脱しきれない取り組みが多々あります。継続的な運用を支える財政モデルを確立できないことが課題視されています。

 ですが、その裏側には、各地域がスマートシティのためのITシステムをバラバラに構築・運用し、データやサービスが地域間で連携していないため、常に初期開発と同等程度の実装費用が発生してしまうという要因があると考えられています。

 防災や交通など特定の分野ごとに課題解決を図るのではなく、行政組織や企業の垣根を越えた分野横断的に課題を解決する必要があります。そのためにはデータ連携が重要な意味を持ってきます。データ連携により、たとえば次のようなメリットが得られます。

サービスの連携 :それぞれにアカウントが必要な個別サービスを、ワンストップのサービスに発展させる
都市間の連携 :居住地と勤務地を行き来している場合でも広域でサービスを享受できる
分野間の連携 :行政のハザードマップと民間の道路通行実績を組み合わせることで防災対策の高度化を図る

都市OSに求められる3つの要件

 スマートシティサービスを実現するためには、必要なデータやサービスの連携機能を提供するための土台、つまりプラットフォームが必要です。このプラットフォームが都市OSの役割です。

 都市OSは、共通ルールに基づくAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を公開して相互運用性を確保しサービスやデータの連携・流通を可能にします。これによりシステム面のコストを減少させます。結果としてスマートシティ自体を効率的に、かつ低コストで実現できるようになります。

 そのために内閣府のホワイトペーパーでは、都市OSには、次の3つの要件が求められるとしています。

要件1=拡張容易(つづけられる)

 地域が解決する課題や目指すべき将来像、および、スマートシティリファレンスアーキテクチャの更新に合わせ、機能拡張や更新を容易にするためには、都市OS自身が継続的に維持・発展し続けられなければなりません。機能間を疎結合に結ぶシステムにするなど、必要な機能のみを拡張・更新する仕組みが必要です。

要件2=相互運用(つながる)

 地域内外のサービス連携や各都市における成果の横展開を可能にするには、相互につながりやすくなければなりません。共通的なインタフェースを備え外部に公開する必要があります。

要件3:データ流通(ながれる)

 地域内外のさまざまなデータが分野や組織の壁を越えて流通し、1つの共有されたデータとして利用できなければなりません。異種データを仲介する仕組みが必要です。

 これらの要件を備え、スマートシティサービスを効率的に開発するための共通的な機能の集合体が都市OS(海外では「CityOS」と呼ぶ)なのです。

 次回は、今回示した都市OSに求められる要件をFIWAREがどのようにして実現しているのか、テクノロジーの観点から説明します。

田代 統(たしろ・おさむ)

NEC クロスインダストリー企画本部マネージャー