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都市OSとしてのFIWAREのアーキテクチャー【第3回】

田代 統(NEC クロスインダストリー企画本部マネージャー)
2020年6月3日

FIWAREの特徴1:ビルディングブロック方式による拡張容易性

 FIWARE GEは、それぞれが独立したサービスとして動作するように設計されています。これは「マイクロサービスアーキテクチャー」と呼ばれ、1つのアプリケーションを、より小さな単位のサービスを組み合わせて構成する手法です。それぞれのサービスはAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を使って連携します。

 FIWAREに限らず、マイクロサービスアーキテクチャーの利点は、サービス間が疎結合になるため、変更の影響を局所化できることです。機能拡張や障害対応などシステムに手を加える際に、既存部分への影響を最小限に抑えられます。

 従来、サービスを分割すると、それを動作させる(ホストする)物理サーバーの台数が増え、管理コストの上昇につながるという課題がありました。しかし、クラウド環境であれば、サーバーの仮想化やサーバー構築の自動化といったクラウド技術の恩恵により、効率良く管理できるようになりました。

 機能拡張を容易にするために機能をブロック単位に分割しておくことを「ビルディングブロック方式」と呼びます。機能群の中から必要な機能を取捨選択し、積み重ねることで、疎結合なシステムを実現できます。将来の機能拡張の観点からみると、クラウド上に構築するシステムでは、この方式の採用が望ましいと考えられます。

 ビルディングブロック間のAPIを統一もしくは公開することで、他のビルディングブロックへの影響を局所化した更新が可能になります。FIWAREでは「Core Context Managementブロック」に含まれる「Context Broker」とGEを中心に、各GE間を共通APIで連携を図っています。ビルディング方式を採用するFIWAREは、スモールスタートからの段階的な発展に適していると考えられます。

FIWAREの特徴2:オープンAPIによる相互運用性

 FIWAREが採用する共通APIが「NGSI」です。モバイル事業者やベンダーによって構成される標準化団体であるOMA(Open Mobile Alliance)が標準化したインタフェースを採用しています。

 従来、スマートシティに向けたサービスは、個別の分野ごとにシステムが構築され、効率化に限界がありました。そのためFIWAREでは、オープンなインタフェースを採用することで、既存サービスの構築だけでなく、分野や組織を横断したデータの利活用による新たなサービスや価値の創造を加速することが期待されています。

 FIWAREで扱われるデータは、個別の識別子や属性、関連する付加情報を含めたコンテキストとして管理されます。この構造を「データモデル」と呼びます。データの活用度を高めるには、データだけでなく、そのデータモデルも合わせて公開することが重要です。FIWAREは代表的なデータモデルを公開しています(https://www.fiware.org/developers/data-models/)。

 ここで定義されていないデータについては、公開されているガイドラインに従うことで、新たなデータモデルを定義できます。データの利活用度を高めることで新たなサービスを創出できる構造になっているわけです。

FIWAREの特徴3:分散管理によるデータ流通

 FIWAREの中核要素は「Context Broker」です。コンテキスト(データそのもの)と、そのアベイラビリティ(データの所在)を管理するためのGEです。

 コンテキストは、歩道に設置したセンサーや、スマートフォン、他システムが管理する公共バスの位置情報など、さまざまな形態で生成されます。その情報源は時間とともに変化します。このような場合でも、データを利用するサービス側に負担をかけないアプローチが必要です。

 Context Brokerは、データそのものを管理するだけでなく、分散するデータの所在を管理することで、連携する複数のシステムが持つデータを論理的に1つのデータとして見せ、利用者がデータへのアクセス方法を区別することなく利用できるようにします。

 データは、蓄積型と分散型の2種類の方式により管理します。蓄積型は、データそのものを保持します。分散型はデータを保持せず、データのメタ情報や所在を管理し、データの利用者(すなわちサービスの利用者)からのアクセスに応じて、データ提供者とのやり取りを仲介します(図3)。

図3:Context Brokerは、さまざまなデータに対する統一的なアクセス方法を提供する

 蓄積型と分散型を用意するのは、たとえば自治体主導のスマートシティにおいて、行政が持つオープンデータは蓄積できても民間が持つ有用なデータが集まりづらいという課題を解消するためです。行政データのみ蓄積型とし、民間データは分散型で利用者に直接届ければ、データ所有者の主権を維持でき、データの利活用を促進しやすいと考えられます。

 複数の都市間でデータの所在を登録し合えば都市間のデータ連携も可能になります。さまざまな分野や地域のデータをFIWAREに集約することでデータの流通が促され、データを活用した新たなスマートシティサービスが創出されると期待されます。

 次回からは、FIWAREを活用した事例を紹介していきます。

田代 統(たしろ・おさむ)

NEC クロスインダストリー企画本部マネージャー