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  • 欧州発の都市OS「FIWARE」の姿

データ利活用型スマートシティを目指す高松市の取り組み【第6回】

FIWAREをベースにデータ活用の共通プラットフォームを実現

村田 仁(NEC PSネットワーク事業推進本部マネージャー)
2020年11月9日

協議会がスマートシティに向けた実証実験を推進

 高松市におけるスマートシティへの取り組みの推進役を担っているのが、「スマートシティたかまつ推進協議会」です。データ利活用型のスマートシティを公民連携で発展させるために2017年に設置され、2020年10月時点では、80を超える団体が参加しています。

 スマートシティたかまつ推進協議会は、民間企業や学術機関、公的機関の有志が新しいまちづくりに参加できる環境を整えてきました。有志メンバーの意見交換から、高松市が抱える課題をICTで解決するためのワーキンググループ(WG)を発足させ、実証実験などの活動を進めています。

 FIWAREによる共通プラットフォーム導入の翌年(2018年)には高松市は「サンドボックス(砂場)」と呼ぶ実証用プラットフォーム環境と、オープンデータサイトを整備し、各WGがFIWARE環境を利用した実証実験に取り組んでいます。

 たとえば2018年度に発足した「交通事故撲滅WG」では、交通マナーの向上を図るため、市内を走る営業車などに設置したドライブレコーダーから得られる情報をビッグデータとして収集。分析により危険要素を割り出し、過去の交通事故データや公共施設データと一元的に表示する「危険要因マップ」を作成しました。

 また、交通事故危険度が高いと推定されるエリアや周囲環境情報を音声でドライバーに提供するスマートフォン用アプリケーションを開発したりもしています。

 他のWGでは、画像やAI(人工知能)を利用する災害対応の高度化や、ICT・データ利活用人材の育成環境向上、地域ポイントを活用した健康行動促進なども検討しています。

 一方、内閣府は2019年度に「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術のアーキテクチャ構築ならびに実証研究事業」を展開しています。

 同事業のスマートシティ分野における実証研究として、FIWAREファウンデーションのプラチナメンバーでもあるNECは、(1)異種システム連携による都市サービス広域化と複数都市間のデータ連携の実証と(2)民間事業者含む都市内の異なるシステム連携による分野横断サービスの実証研究を、高松市と実施しました。

 (1)異種システム連携による都市サービス広域化と複数都市間のデータ連携の実証の目的は、高松市が持つ防災情報設備を周辺自治体も利用できるようにしたり、新機能を容易に追加したりできるようにするのが目的です。

 具体的には、近隣の観音寺市、綾川町にも水位センサーとカメラを設置し、高松市のダッシュボード機能を、観音寺市と綾川町を加えた3自治体で広域利用できる環境を構築しました。

 さらに「降水ナウキャスト」といった気象情報や通行実績、通行規制などの交通情報など、複数の異なるシステムが持つ情報を新たに取り込み、収集された情報からAIを使って河川水位を予測分析する機能を開発しました(図3)。

図3:「異種システム連携による都市サービス広域化と複数都市間のデータ連携の実証」による3自治体による情報連携のイメージ

 これらの取り組みは、FIWAREの特長である接続性、連携容易性、規模剛性が活かされた実証だといえるでしょう。

 高松市では今後も、FIWAREをベースにした共通プラットフォームを活用し、データ利活用型スマートシティ環境のさらなる整備を推進する計画です。

 そのために、デジタル人材の発掘・育成を目的としたセミナーの開講や、瀬戸・高松広域連携中枢都市圏などにおける広域連携の拡大、スマートシティを推進する他都市との連携など、多様な主体との連携を進めていきます。

FIWARE上でのアプリケーションの誕生を期待

 2020年9月、菅内閣が発足しました。新内閣では新たに、デジタル改革担当大臣が設定・任命され、将来のデジタル庁創設を含め、行政のデジタル化を一本化して進める方針が打ち出されました。

 先んじて2020年5月に成立した「スーパーシティ法案(国家戦略特区法改正案)」とともに、行政・自治体のデジタル化は加速度的に進み、ICTを通して国や自治体と住民の関係性も変わっていくことでしょう。

 そこで期待されるのは、国や自治体、各種機関、民間企業が、これまで別々に有していた情報を、一定のルールの下に共用し有効活用する社会の実現です。

 第3回でFIWAREの3つの特徴を紹介しました。(1)ビルディングブロック方式による拡張容易性、(2)オープンAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)による相互運用性、(3)分散管理によるデータ流通です。

 これらは、それぞれが、開発の容易性、参加の容易性、データの利活用の容易性・拡張性を担保するものであり、データ利活用型スマートシティとFIWAREの親和性を高めています。

 都市OSとしてのFIWAREは、オープンソース形式をもってコミュニティを通じて日々研鑽されています。FIWAREが日本国内にも浸透し、人々の生活を豊かにするためのFIWAREを利用したアプリケーションが生まれてくることを期待してやみません。

村田 仁(むらた・ひとし)

NEC PSネットワーク事業推進本部マネージャー