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  • IoTのラストワンマイルを担うLPWAの基礎知識

IoTデバイスに組み込む通信機能としてLPWAを選ぶ【第4回】

中村 周(菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長)
2020年5月15日

最新・最速の技術が常に必要なわけではない

 事業継続の生命線として条件4は重要だが、見守りサービスの機能・品質としてはまず条件の1〜3を満たせる通信方式を選定する必要がある。3G/4G/5Gといった携帯電話無線とLPWAが選択肢になる。

 たとえばLPWAの一規格であるLoRaWANは、工場などの閉域網接続に向いている規格だ。だがゲートウェイを設置しないと接続できないという仕様になっている。高い建物などの遮蔽物があったり数十キロメートルも離れていたりするGPS BoTの使用方法には向かないことになる。

 条件3の観点では、都市部だけでなく、人口が少ない地方部でも位置を検知できるポイントを確保する必要がある。すると、どうしてもキャリア網からの選択になる。そこに条件4を加味すれば、過度な性能を持つ方式から順に候補から落ちていく。

 すると真っ先に脱落するのが5Gである。子供の位置を最大でも1分に1回程度で確認する使用例に5Gが必要かという話だ。近所のスーパーに買い物に行くために時速300kmが出せるフェラーリ(1台4000万円)は必要ない。第1回で述べた「5Gは万能ではない」とはこのことである。同じ理由で4G LTEも落選だ。

 キャリア網で残るのは3Gである。これまで3Gは、場所を特定せず動き回る高齢者や子供の見守りタグ、自動車やタクシー、トラック、バスなどの運行状況の把握などに多用されてきた。だが3Gは間もなくサービスが終了になるため、これからのデバイスやサービスなどの新規開発には向かない。

 そこで候補に残るのは、3GPPが規定した2つの規格。LTEと同じ電波を使うLPWAであるNB-IoTとLTE-Mである。NB-IoTのデータ通信速度は数十kビット/秒だ。良いとは言えないが、消費電力は少なく省エネであるのが利点である。しかし、基地局のカバーエリアを離れ隣の基地局のカバーエリアに移動した際にハンドオーバーされず、都度つなぎ直しになる。これでは移動体に向かない。

 一方のLTE-Mは、データ通信速度は数百k~1Mビット/秒で大まかには適している。消費電力はLoRaWANにはかなわないが、LTE(Cat.1など)よりは、はるかに低消費であり、需要を大まかにはカバーしてくれる。既存のLTE携帯基地局を使うため基地局間移動にも対応している。

 こうした選定過程を経てGPS BoTにとっての1つの最適解としてはLTE-Mが選ばれた。そのうえでBsizeは、搭載するLTE-Mモジュールとして、データの発信頻度によるものの最大1カ月は充電不要な製品を選択した。条件2として、1カ月はランドセルにぶら下げたままにしておける。

 ちなみに選択したモジュールの単体サイズは 14.9ミリ × 12.9ミリ × 1.7ミリで、ウェアラブル用途に合致している。一度ランドセルに付けてしまえば、子どもたちには何の負担もなく持ち歩けるだろう。

製品/サービスの対象やビジネスモデルなどで条件は変わる

 今回は、子供の見守りタグを題材に、IoTデバイスに組み込む通信機能としての選定過程を紹介した。IoTデバイスの用途や通信頻度、あるいはビジネスモデルによって選定条件は変わってくる。LPWAをより適切に選定するためには、開発する製品/サービスの価値や利用状況をまずは明確にする必要がある。

 そうした観点から次回は、LPWAの規格選定では、どのような項目を検討すべきかについて、そのポイントを紹介したい。

中村 周(なかむら・あまね)

菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長。中央大学電気電子工学科卒業後、キーエンス FAIN事業部でFA(Factory Automation)業界の営業を8年経験。NSMにてFAE(Field Application Engineer)、富士エレ/マクニカにて無線半導体などの分野でマーケティングマネージャーを務め、2018年2月より現職。

IoT/無線業界のキーマンと深いネットワークで規格の壁を超えた通信系コミュニティの立ち上げに注力し、「5GとLPWAべんきょうかいplus」も取り仕切る。同イベントには日本のIoT業界から200人を超える技術者が参加する。