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  • Well-beingな社会に向けたロボットの創り方

「ロボット」とは何なのか?【第1回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2020年7月6日

Withコロナでロボットへの期待が増大

 冒頭で述べたように、「ロボット」という文字を見聞きしない日はない。それは、これまで書いたような3つの価値の重要度が増すと同時に、それらの価値を実現するための技術も加速度的に進化してきているからであろう。

 特に、新型コロナウイルスおよび新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が社会にもたらしたインパクトは大きく、3つの価値それぞれの重要性が再認識されている。各種報道によると、スタートアップを中心に消毒や搬送などを目的としたコロナ対策ロボットは、数倍から数十倍の受注状況となっているようだ。

 では、Withコロナの時代において、ロボットの価値はどのような方向に向かっていくのであろうか。

  価値1 :自動化による生産性の向上は、Withコロナの時代においても大本命、本流として成長し続ける領域であろう。生産労働人口の減少による人手不足というメガトレンドがニーズの根本にあるためだ。

 さらに、With コロナの時代においては、これまで人手不足の解決の一翼を担っていた外国人労働者が海外からの移動制限により十分確保できなくなる可能性もある。特に建築、物流、小売りなどの領域においては、さらに人手不足が加速する可能性もある。

  価値2 :遠隔化による安全性の向上は、上述したように原発などの極限環境での作業で有効性を発揮していたが、コロナにより一気に身近な存在として社会に実装されていく可能性がある。

 たとえばANAホールディングスが設立したavatarin(アバターイン)は、接客などの対人業務の遠隔化に向けたアバター(分身キャラクター)の開発を積極的に進めている。他にも多くの企業が、AI(人工知能)や、5Gといった通信技術など関連技術の進化と相まって、開発・社会導入を進めている。2020年は「アバター元年」と呼ばれる年になるかもしれない。

  価値3 :自己拡張による幸福度の向上に関しても、需要は増していくであろう。特に今まで多くの人が安泰と思っていた身体面での安全・安心が急激に脅かされており、その結果として精神面、社会面でのQoLが不安定な状態になっていくことが予想されるためだ。

 そのような時代においては、「当たり前」に思っていた「自分がしたいことをできるようにする」「ありたい状態でいられるようにする」ということに対する欲求・欲望は、これまで以上に強くなる。そのために必要な自己拡張技術が重要になってくるであろう。

組織や社会にとってのロボットの価値を最適化・最大化する

 これらロボットが提供する3つの価値は、どれが一番大事という類の話ではない。技術を使う我々人間が、どのような社会を創りたいのかという意思を持ち、それぞれの提供価値をシーンに応じてバランス良く実現していくことが重要である。

 たとえば、効率ばかりを重要視してロボット化をどんどん進めれば、結果としてヒトはロボットができない作業を担当することになる。そんな仕事に、やりがいをもって取り組める人は少ないだろう。個々人によって異なるモティベーションやエンゲージメントなども考慮しながら、それぞれの組織や社会にとって、広義の意味での生産性を最適化・最大化するためにロボット技術を使っていく必要があるのだ(図2)。

図2:自動化と自己拡張の考え方

 すなわち、個人のQoLと経済合理性を両立できるようにテクノロジーを活用すべきではないだろうか。そうすることで、Well-being=より良い状態の社会を実現できると筆者は考えている。

 次回からは、Well-beingな社会の実現のために必要な自動化や自己拡張の現状と課題を紹介しながら、それらの課題解決に向けたアプローチについて提案していきたいと思う。

安藤健(あんどう・たけし)

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室総括。パナソニックAug Labリーダー。博士(工学)。早稲田大学理工学術院、大阪大学大学院医学系研究科での教員を経て、パナソニック入社。ヒトと機械のより良い関係に興味を持ち、一貫して人共存ロボットの研究開発、事業開発に従事。早稲田大学客員講師、福祉工学協議会事務局長、日本機械学会ロボメカ部門技術委員長、経済産業省各種委員なども務める。「ロボット大賞」「IROS Toshio Fukuda Young Professional Award」など国内外での受賞多数。