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  • Well-beingな社会に向けたロボットの創り方

高まるロボティクスニーズが求めるオープンイノベーション【第20回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2022年1月11日

これまで「ロボティクスとは何なのか?」から始め、自動化や自己拡張など様々なロボティクスの価値について紹介しながら「どのようにすれば人も社会もWell-being(幸福)に近づいていくのか」を論じてきた。今回は、ロボティクスによる価値創出を実現するために、どのような開発手法を採用していく必要があるのか、特にオープンイノベ―ション(共創)の重要性について考えていきたい。

 第1回で述べたように、人手不足の解消や、経済成長のための生産性の向上、創造性やマインドフルネスのための幸福度の向上を目的に、ロボティクスの活用ニーズは日に日に増している。

 その高まりは加速度的だ。『「まず使ってみる」が目的化したPoCは結実しない【第9回】』で述べたように「数カ月で現場に届けてほしい」など、要求されるスピードや技術的な完成度のレベルは劇的に上がってきている。従来なら1社で時間をかけて対応できていた案件や開発内容に対しても、単独の会社では十分なスピードでの対応が難しくなっている。

技術的な性能向上を目指した「オープンイノベーション1.0」

 そのような状況の中で普及してきたのがオープンイノベーション(共創)だ。複数の企業や大学などが連携しソリューションを実現する。

 「オープンイノベーション1.0」とも呼ばれる初期には、例えばロボットアームであれば、その作業速度や繰り返し精度といった技術的な性能向上が目的だった。いわゆる産学連携として工学的な研究に取り組み、特定の技術スペックを改善することが顧客ニーズに応えることにつながっていた。

 オープンイノベーション1.0では、解くべき問題はロボットを“もっと速く、もっと正確に、もっと滑らかに”動かしたいという機能性能の改善であり、ある意味、シンプルだったとも言える。

 それが近年は、課題解決に許される速度がさらに上がっている。感覚的には、例えば新しい課題に挑戦するために新たにハードウェアを開発する必要があるケースでも、数年前までであれば1〜2年単位で取り組めたような案件が、最近は3カ月程度しか許容されなくなっているといった印象がある。

 こうした現象が生じ始めたのは、『ロボットによる自動化の進化と新産業への適応【第2回】』で述べたように、製造業の自動化の文脈で活用されてきたロボットが三品産業などの新しいアプリケーションにおける問題を解決する必要が出てきたことによる。

 それが、『顧客との共創がロボットの導入価値を高める【第8回】』で述べた「顧客との共創」という意味での企業間のオープンイノベーションの加速につながっていく。

 さらに顧客の“お困りごと”の切迫度が急激に高まる中で、開発スピードをより高めるために、特徴的な技術を有するパートナーとのコラボレーションという意味での企業同士の共創も積極的に行われるようになっている。

 著者らの活動でいえば、「Robotics HUB」という活動が相当する。図1のように、顧客や技術パートナーとなる企業や先端研究を担う大学、省庁や地方自治体など官との連携を積極的に推進している。

図1:Robotics HUBの活動イメージ

 例えば、顧客企業との連携という視点では、トマトの収穫ロボットの開発が該当する。農業というパナソニック側に現場の十分な知見がない領域においても、農業が専門の企業とコラボレーションすることで、実際の現場のお困りごとを吸い上げながら、また農園の現場で細部を確認しながら、開発を進められる。

 開発者自身も長期に渡り現場に入り込むことで、専門外の領域であっても困りごとを“自分事”にしながら開発ができる。このメリットは、第16回で述べた「圧倒的な当事者意識をいかにして持ちながら進めるか」という点とも関連する。

 技術的なパートナーという視点では、追従型ロボティックモビリティ「PiiMo」の開発におけるWHILLとの連携が挙げられる。PiiMoでは、WHILLが開発する「パーソナルモビリティ」を活用しながら、パナソニックは追従走行や安全停止といった制御部分の開発を担当している。

 一見すると、パーソナルモビリティこそがPiiMoの主要要素であり、自社のみで開発したくなる。だが、ゼロから自社で開発するよりも、市場が求めるスピードでモビリティとしての完成度を早く満たせるとの考えから、オープンイノベーションを採用した。