- Column
- Well-beingな社会に向けたロボットの創り方
多様な関わり合いの中に生きる人と自然の間に生まれるWell-being【第19回】
前回は、「わたしたち」という視点からの人と人の繋がりによるWell-being(幸福)の重要性を、親と子の関係性に着目したロボットを事例に紹介した。今回は「わたしたち」という概念を、空間や自然など地球そのものにまで広げながら「わたしたちのWell-being」を考えることの重要性を考えたい。
前回、一人で実現するWell-beingから、複数人が存在することによる関係の中で生じるWell-beingについて議論した。「わたしのWell-being」から「わたしたちのWell-being」へということだ。
ところで「わたしたち」とは一体何なのであろうか。私に絡むものすべてを「わたしたち」と捉えると、非常に広いものが対象になってくることがわかる。もちろん前回紹介したような「他者」もあれば、使っているモノ、存在している空間、社会、自然環境そのものも「わたし」という存在と大いに関わり合っている(図1)。
このような関係を筆者らは、(1)ヒトとモノの関係性、(2)ヒトとヒトの関係性、(3)ヒトと自然の関係性という3つの関係性で整理した。これらの関係性において、Well-beingとの関係について最もピンとこないのが「人と自然の関係性」だろう。そのイメージを2つの事例を紹介することで伝えたい。
Waft:漂うミストが人と自然の関係性を提示
最初の事例は、著者らがコンテンポラリーデザインスタジオのWe+と共同開発した「Waft」だ(図2、紹介ページ)。水槽の中にミストを発生させる装置である。水槽の上部にある隙間を介して外界との空気のやり取りがあるため、例えば水槽の前を歩いたりすると、水槽周辺、そして水槽内の気流が乱れ、結果としてミストが形を変え、漂う。
言葉ではなかなか表現しにくいが、その表情の変化が美しい。雲海を上から眺めているような感覚にもなる。特にセンサーやファンなどは使っておらず、空気の流れの変化が美しく表現できているのではないかと思う。
人は昔から自然とともに暮らしを営んできた。特に、豊かな自然に恵まれた日本では、例えば「水」にまつわる言葉だけでも1000種類以上あるとされる。その自然への繊細な感覚は、俳句や書画・季節の行事など日本の伝統的な文化の中にも多く見られる。
しかし、その身近な当たり前の存在がゆえに、また目に見えず感じにくい存在であるがゆえに、その大事さや美しさに気づきにくくなっているのも事実だ。
Waftは、人々にとって最も身近な存在である水と空気のふるまいをよりピュアかつ鮮明に感じられるプロダクトである。プロトタイプは「現代があらゆるものを制御しようとしすぎである」との想いで作られた。人が本来持っている自然への細やかな感性を呼び覚まし、自然とのつながりを取り戻すきっかけの提供を目指している。
2021年夏には、パナソニックのSTEAM(Science:科学、Technology:技術、Engineering:工学、Art:芸術・リベラルアーツ、Mathematics:数学)教育施設「Akerue」にWaftを設置してみた。
ミストが思い通りには漂わないからこそ、見る人は水槽の前を歩いてみたり、子供たちなら水槽の上の隙間の気流を乱そうと試行錯誤したりしている。結果的に、ミストから水や空気という自然を感じ,その美しさや楽しさに気付けたうえに,親密な関係を築けることが分かった。
Waftは、先端テクノロジーを使わずに、人は元来、水・空気といった自然環境の中でインタラクションを繰り返しながら生活してきたことを実感させてくれた。テクノロジーが実現すべきインタラクションについて大きな示唆を含んでいるように感じる。