• Column
  • Well-beingな社会に向けたロボットの創り方

「ロボット」とは何なのか?【第1回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2020年7月6日

「ロボット」という言葉を、さまざまな場面で見聞きするようになった。これまでロボットは、主として工場でモノを作るという作業に活用されてきた。それが今、人手不足という社会的な理由を背景として、物流現場や空港など工場以外のさまざまな場所で急速に活用されるようになってきている。初回の今回は、「そもそもロボットとは何なのか?」――。その定義や価値について考えてみたい。

 「ロボット」という言葉は、作家カレル・チャペックが1920年に書いた戯曲『ロッサム・ユニバーサル・ロボット会社(R.U.R.)』に登場する人造人間に名付けられた、チェコ語で労働を意味する「robota」に語源があると言われている。つまり、労働のためのツールとしてロボットは誕生したのである。

 学術的にはどうだろうか?1960年代まで遡ってみると、ロボットコンテストの創始者としても知られる東京工業大学の森 政弘 先生らはロボットを「移動性、個体性、知能性、汎用性、半機械半人間性、自動性、奴隷性の七つの特性をもつ柔らかい機械」として定義した。

 また世界初のヒューマノイドロボットの開発などで知られる早稲田大学の加藤一郎 先生は「①脳と手と足の3要素をもつ個体、②遠隔受容、接触受容器をもつ、③平衡覚、固有覚をもつ、これらの3条件を備える機械」としてロボットを定義している。

 言葉は少し難しいものの、どちらの定義も人間っぽいロボットがイメージされる。もしかするとロボットアニメに慣れ親しんだ日本人にとっては、ある程度しっくりくるものかもしれない。

我々はロボットに何を求めているのか

 しかし、最近のロボットの定義はよりシンプル、かつ広くなっている。経済産業省が2006年に発行した『ロボット政策研究会報告書』では、ロボットは次のように定義されている。

「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」

 この定義によれば、自動運転車のように周辺環境をセンシングし、情報処理を行うことで、車線に沿ってステアリングを制御するものは広義のロボットに該当する。衣類の汚れの種類や量をセンシングし、汚れに応じてドラムの制御を変更する最新型の洗濯機なども広義にはロボットとして扱っても良いだろう。

 逆に、自動翻訳システムなどはセンサーと知能系はあるものの、駆動部がないため、ロボットとしては扱わないという判断になる。本連載における「ロボット」も、上記の広義な定義をもとに進めていきたいと思う。

 このように定義されるロボットを我々は、何のために使うのであろうか?筆者は大きく分けて、以下の3つの価値を求めているのではないかと考えている(図1)。

図1:ロボットが提供する3つの価値

価値1 :自動化による生産性の向上
価値2 :遠隔化による安全性の向上
価値3 :自己拡張による幸福度の向上

 価値1の「自動化による生産性の向上」とは、人が実施している作業をロボットに代替させる際に“より速く”“より精度良く”“より安く”のいずれかを実現することで、作業の生産性・効率性を向上させることだ。工場で活用されてきたロボットは、FA(Factory Automation)と呼ばれるように、基本的にはこの価値を提供するものだった。

 2つ目の「遠隔化による安全性の向上」は、文字通り、人が行うには困難もしくは危険な場所での作業をロボットを用いて遠隔から実施し、実施者の安全を確保するためのものである。宇宙や深海での作業や原子力発電所内での作業などの極限作業が該当する。

 たとえば、2011年3月に起きた東日本大震災および福島第一原子力発電所事故への対応において、国内外の遠隔操作型クローラロボットが多く活用された。遠隔操作により制御された移動ロボットから送られてくる原発内の様子を覚えている方も多くいらっしゃるのではないだろうか。

 最後の「自己拡張による幸福度の向上」は、個人の能力を引き出したり拡張したりすることで、自分がしたいことをできるようにする、もしくは、ありたい状態でいられるようにする、そして結果的に個人のQoL(Quality of Life:生活の質)を向上させるためにロボット技術を活用することになる。古くは義手・義足など、低下した機能を元に戻すようなリハビリテーション関係の取り組みが当てはまる。

 物理的な能力や機能の拡張だけではなく、自分自身のこころの状態といった精神面や、他の人との関係性といった社会面での状態を元より拡張するというような取り組みも当該領域に含まれるだろう。