• Column
  • Well-beingな社会に向けたロボットの創り方

ロボットの活動領域拡大のカギはシステムインテグレーションにあり【第5回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2020年11月9日

「システムインテグレーション」の用法に気を付けろ

 ロボット業界では今、流行り言葉的に「システムインテグレーション」という言葉が使われることがある。話している人によって指し示している内容・範囲が異なる場合が多々あり、意図を正しく理解するために注意が必要だ。システムインテグレーションには、独断であるが、大きく3つの使い方があるようだ。これはインテグレートする対象のレイヤーの違いに起因する(図1)。

図1:システムインテグレーションのレイヤー構造

用法1:ロボット本体自体を作ること

 ロボットそのものをロボットシステムと考えたときに使われる表現。いわゆる、メカトロニクスとしてのインテグレーションを指している。

 ロボティクスは、メカトロニクス・エレクトロニクス・ソフトウェアなど多くの技術の融合的な領域だ。学問的には、何かを分析していくアナリシス型とは異なり、要素を統合していくシンセシス型であると言われている。「ロボットを作るときには、システムインテグレーションができる人材が必要だ」といった使い方がされる。

 確かに、ヒューマノイドロボットなどを見てみると、数十個のモーターやセンサーを使ってロボットを制御している。ロボット1体を動かすだけでも、かなりのインテグレーションスキルが必要である。

用法2:現場でロボットを動くようにすること

 商品として完成しているロボットを現場で使えるように、つまりロボットが実行する工程や作業で使えるようカスタマイズするときに使われる表現。例えば、リスクアセスメントをしたり、カメラなど他のパーツとつないだり、ロボットが動く位置や軌跡を教えたりといった作業を指す。

 産業用ロボットなどにおいて、システムインテグレーターの費用が掛かるなどの表現が使われるのは、こうした作業に時間が掛かることを意味しているケースが多い。

用法3:ロボットを周辺システムと連動するようにすること

 単体として動くようになったロボットを周辺システムとつながるようにする際に使う表現である。特にサービスロボットの分野では、エレベーターシステムや、監視カメラシステム、課金システムなど多くの周辺システムと連動することを求められることが多い。

 もしくは製造業でいうMES(製造実行システム)、物流の場合はWMS(倉庫管理システム)といった上位システムと連動することを指す場合にも使用する。

 さらには、つながったシステムを使って、どのようなサービスを展開するのかを検討する際にも使われることがある。この場合は、いわゆる経営的スキルやデザイン思考といったエンジニアリング以外のスキルも必要になってくる。

 いずれの用法であっても、システムインテグレーションが重要であることは間違いないが、使い方によっては話がかみ合わないことも多いだけに、どのレイヤーのインテグレーションを話題にしているのかは常に意識した方が良い。

 個人的な経験では、産業用ロボットの場合には第2の使い方が、サービスロボットでは第3の使い方が、なされていることが多い。第1の使い方は、大学の先生などと話す際に多いように感じる。

上位システムとのインテグレーションが付加価値につながる

 3つのレイヤーにおいて、どのレイヤーが一番重要という類の話ではない。だが今後、事業面で重要度がますます高まってくるのは、外部システムとの連動であるだろう。特に、業界ごとの基幹システムおよび上位システムとの連携は、ロボットの運用効率などに強く影響してくるだけに大きなポイントになってくる。

 製造業のMES、物流業のWMS以外でも、例えばホテル業界のPMS(Property Management System)、建設業界におけるBIM(Building Information Modeling)などが該当する。MES、WMS、PMSと連動すれば、いつ、どこで、何が必要なのかという人やモノに関する情報を基に、ロボットの需要に関する計画を立てられる。

 BIMとの連携では、ロボット稼働のシミュレーションやオペレーション、そしてロボット用地図の作成の簡略化などが可能になるだろう。将来的にはビル内のあらゆる機器がBIM経由で制御されるようになるかもしれない。

 実際、竹中工務店などはBIMモデルを活用した建設ロボットプラットフォームをAWS(Amazon Web Services)上で稼働させ、ロボットの運用を支援する取り組みを始めている。

 ロボットのために基幹システムや上位システムが整備されるということは、なかなか難しいだろう。逆説的にはなるが、既に上位システムや基幹システムがきっちり整い、現場レベルでも活用されている業界の方が、ロボットの活用が飛躍的に進む可能性が高いともいえる。

 メカトロニクスや製造ラインという意味でのシステムに加え、今後はオペレーション全体を効率化するためのシステムインテグレーションの重要性が増すと考えられる。サイバー空間から得られる将来の計画や、ロボット以外のモノの状態に関するリアルタイムな情報と、フィジカル空間のエッジに位置するロボットが得ている情報の連動が欠かせなくなるはずだ。

 今回は、ロボット単体ではなく、顧客ニーズに応えるためのシステムインテグレーションの視点から現状を見るとともに、今後の方向性について述べた。次回は、ロボットのビジネスモデルについても見ていきたい。

安藤健(あんどう・たけし)

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室総括。パナソニックAug Labリーダー。博士(工学)。早稲田大学理工学術院、大阪大学大学院医学系研究科での教員を経て、パナソニック入社。ヒトと機械のより良い関係に興味を持ち、一貫して人共存ロボットの研究開発、事業開発に従事。早稲田大学客員講師、福祉工学協議会事務局長、日本機械学会ロボメカ部門技術委員長、経済産業省各種委員なども務める。「ロボット大賞」「IROS Toshio Fukuda Young Professional Award」など国内外での受賞多数。