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ロボットの活動領域拡大のカギはシステムインテグレーションにあり【第5回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2020年11月9日

前回は、最近のロボットビジネスの状況を紹介した。自動車や電機産業の工場で使われてきた産業用ロボットが、三品産業といった他の生産工場や、さらには物流倉庫、そして家庭まで広がりつつある。一方で、市場はまだまだ限定的で拡大の余地があるのも事実だ。今回は、特にB2B(企業間)の領域で適用市場を拡大するために重要な「システムインテグレーション」について考えてみたい。

 ロボットはほとんど場合、それを購入しただけでは役に立たない。ロボットの導入目的が達成できるように、ロボットをどういう場合に、どのように動かすのかを考え、考えた通りに動くようにする必要がある。

 すなわち、センサーなどを活用して周囲の状況を見極め、状況に応じてロボットを動かすポイントを決める。そしてそれが、実際の現場で、きちんと動作するように調整、すなわちティーチング(教示)作業を実施しなければならない(写真1)。

写真1:ロボットを活用するには、動き方を調整する必要がある(写真はイメージ)

 別の表現をすれば、ロボット単体ではなく、関連機器や関連システムを組み合わせて“1つのシステム”として、しっかりとエンドユーザーの要望を満足させるようにする作業だと言える。こうした行為の総称を「システムインテグレーション」と呼ぶことが多い。

ロボットメーカーもシステムインテグレーション事業に参入

 そして、システムインテグレーションを実行する人や会社のことを「システムインテグレーター(SIer)」と呼ぶ。IT分野のシステムインテグレーターと区別するために「ロボットインテグレーター」や「ロボットシステムインテグレーター」と呼ぶこともある。

 ロボットの領域におけるシステムインテグレーションの重要性は、近年強く指摘されている。ロボットの価値を最大限発揮させるには、システムインテグレーター抜きには考えられないからだ。

 金額面で考えても、『ここが知りたい!ロボット活用の基礎知識』(日本ロボット工業会)に紹介されている事例を見ると、ロボットをユーザーが望む通りに動かすためには、ロボット本体の購入費用の3~5倍の費用が必要になることがわかる。

 システムインテグレーションは、ある意味、スマイルカーブの川下側に近づくため、事業としては収益を上げやすいという考え方ができる。実際には、それほど簡単ではないが、スイスのABBなどのロボットメーカーも、自社の知見を活用したシステムインテグレーション事業を立ち上げ、ロボットの製造から生産ラインの構築までのバリューチェーン全体に対応できるようにし始めている。

 日本でも日立製作所は、アメリカのシステムインテグレーターであるJRオートメーションを買収し、北米でのインテグレーション事業に参入している。政府が主導する形で2018年に設立されたFA・ロボットシステムインテグレータ協会の会員数は、2020年10月時点では255社と賑わいをみせている。

エンドユーザーや現場の深い理解が不可欠

 では、なぜ今、システムインテグレーターが重要視されているのであろうか。それは、システムインテグレーターに求められる最も重要な要件の1つが、「エンドユーザーのこと、そしてエンドユーザーの業界のことを深く理解していること」であることに関係している。

 これまでのロボットは、前回も述べたように、基本的には自動車産業、電機産業が主な活用領域だった。それに対して今の動きは、産業用ロボットにおいても自動車/電機産業以外の未活用領域に用途を拡大したり、サービスロボットとして公共空間でも活用したりするものだ。

 自動車/電機産業の大手メーカーは、基本的には生産技術部門を持ち、自社内にシステムインテグレーションができる人材を保有しているケースが多い。もしくは、昔から付き合いのある業界を熟知したシステムインテグレーターが存在している。

 ただ、自動車/電機産業のインテグレーターが、他産業やサービスロボットのシステムインテグレーションをすぐにできるかというと、まず業界の特性や顧客の要望を正しく理解するところから始めなければならず、なかなか難しいのが現状だ。ロボットの活用領域を広げたいものの、多くの産業に対応できるインテグレーターの数は不足しており、普及速度を加速しにくくなっている。

 この難しさを超えるために、さまざまな施策が検討されている。大きくは「未活用領域でも活躍できるシステムインテグレーション企業・人材の育成」と「システムインテグレーションの技術難易度の低下」である。

 前者では、先に述べたFA・ロボットシステムインテグレータ協会を作り、情報共有や研修活動を展開したり、システムインテグレーションスキルが高いとされている高等専門学校と連携したりといった施策が進められている。

 後者に関しては、共通的な機能(例えば、画像認識、アームの位置制御、移動ロボットの経路生成など)を協調領域としてインタフェースを統一することで業界ごとの個別開発の必要性をなくしたり、手動でロボットに動き方を教え込む作業を自動で実行できるようにすることで、求められるインテグレーションのスキルレベルを下げようといった試みが実施されている。