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IoTデータが変えるロボットのビジネスモデル【第6回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2020年12月7日

顧客が求めるサービスの実現で対価を得る

 このサービス請け負いを、さらに進化させているのが、顧客が求めるサービスを実現できたときのみ対価を得る、いわゆる従量課金型や成果報酬型のモデルである。

 物流関係では、米国のinVia Roboticsが、このモデルを導入し、ロボットが品物をピッキングし所定の場所まで運ぶごとに課金している。作業の効率化・高速化を図り、稼働するロボットの台数が減らせれば減らせるほど、もしくは1台当たりのさばける量を増やせれば増やせるほど、inVia Roboticsが儲かる仕組みになっている。

 日本の農業ベンチャーであるinahoも、収穫高に応じて課金する成果報酬型のビジネスモデルを採用している。具体的には、例えばアスパラガスの場合は「市場取引価格 × 重量の15%」を農家はinahoに支払うという仕組みになっている(詳細は著者記事を参照)。

 RaaSモデルの流れは、産業用ロボットにも押し寄せている。例えば、産業用ロボット大手であるスイスのABBは、同社の協働ロボット「YuMi」に、クラウドのMicrosoft Azureを利用したオペレーション用プラットフォーム「ABB Ability」を組み合わせ、ロボットを遠隔から監視・操作・管理するRaaS事業を構築している。

 YuMiは、スマートフォンなどの小型民生品を対象にした協働ロボット。小さな部品を扱うとともに、機種変更が早く、組み立て工程が頻繁に変わる多品種少量生産をターゲットにする。YuMiの動きを遠隔監視するサービスにより、遠隔からの異常検知と解決、ロボット資産の管理の最適化などが可能になることから、顧客業務の請負・代行サービスになっている。いわゆる、マネージドサービス型のビジネスモデルをロボット分野で構築しているわけだ。

 ABBのサービスは、単純な監視業務から始まりながらも、最後はリソース管理という顧客の懐奥深くまで入り込むことで、継続的なサービス提供を狙う。これを実現するためには、顧客像を明確にしたうえでの深い業界の知見と、ハードウエアから得られる機器および作業データを組み合わせることが重要になってくる。

機能強化と顧客の経営課題発見を両立する

 X as a Serviceモデルは、世間で持てはやされている。だが、特にメーカー側にとっては決して良いことばかりではない。従来の売り切りモデルは、ある意味でメーカー主導であり、「このようなプロダクトを作ったので買ってください」という考え方が成立していた。

 これに対しサービスモデルは“ユーザー目線”である。本質的には非常に良いことではあるが、メーカー側にすれば、かなり自信がなければ踏み込めない。

 例えば、イニシャルコストをゼロにした成果報酬型は、ユーザー側は非常に導入しやすいが、提供者側からみれば、契約を解除し他社への乗り換えが容易になる。より性能が高いロボットが現れれば、そちらに乗り換えられてしまうのだ。

 これを避けるためには、大きくは2つのポイントがある。1つは、当たり前ではあるが、ロボット自体の性能を高め、強みを維持し続けること。もう1つは、重要経営課題にしっかりと刺さるサービスモデルに育て上げることである。

 第2のポイントについて、もう少し説明すれば、単純にロボットの性能を高めることに加え、ロボットのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)化によって、「経営課題発見装置」としてロボットを使ったり、顧客の経営を改善するための次の案を出し続け経営へのインパクトが大きい課題に対するサービスに成長させたりができるかが問われている。

 成功事例としては、ロボット業界ではないが、米GE(General Electric)のエンジン事業がわかりやすい。第1のハードウェア(エンジン)の強化・進化に関してGEは、加工・成形を徹底的に内製化することで、燃費改善のコア技術をブラックボックス化するとともに、素材メーカーとの連携を強化することで他メーカーに対する優位性を維持した。

 2点目に関しては、従来のエンジンを売るモデルからエンジンデータを使ったサービスモデルに変革を図っている。エンジンにセンサーを付け、エンジンの回転数・出力・燃焼状態や部品状態などを常時モニタリングできるようにした。これにより「エンジンを使った分だけ課金する」という従量課金モデルへの変更に成功した。

 さらに、稼働状況や部品データを活用することで、迅速かつ未然のメンテナンス作業を提案し、アフターマーケット市場での収益化を図っている。こうした仕組みは、日本の小松製作所(コマツ)のIoT建機のプラットフォームである「コムトラックス」も同様の考え方である。センサーデータは、自社のエンジン開発にもフィードバックすることで、1点目のハードウェアの強化とのシナジーにも、つながっていく。

 GEの凄さは、さらに次のステップにビジネスモデルを進めたことにある。計測したデータを分析し「燃料消費が少ない最適な飛行ルート」のデータを航空会社に販売し、そのビジネスモデルを成果報酬型で実現している点だ。

 最短の飛行ルートと保守作業を到着前に明確に知らせることで、航空会社にとっての経営指標に直結する「定時運航率」や「燃料ロスの削減」という価値を提案し、それらを実現できれば費用を徴収するという、顧客にとって、この上ない納得感を与える仕組みを構築できている。

川上と川下の両方向への踏み込みが不可欠に

 多くの業界と同じように、ロボットにおいても“サービス化”の流れは避けられないトレンドだ。どんなRaaSモデルが良いかは一概には言えないが、ロボティクスを使ったサービスを顧客に使い続けていただくには、ロボット自体の優位性の維持と顧客の経営指標に突き刺さるビジネスモデルの立案がポイントになるだろう。

 そのためには、技術としての戦略的なレベルアップは当然として、GEの例にあるように、事業戦略としてバリューチェーンの川上側まで踏み込んだ開発戦略や、川下側では金融業との密な連携が必要なケースが増えていくだろう。ロボットというモノがある以上、そのアセットは誰かが所有しなければならない。この重たいアセットをどのように価値に変え続けるか?という視点で金融業に期待される役割は大きい。

 次回は、ロボットのビジネス化を目指す際に陥りやすい落とし穴を見ていきたい。

安藤健(あんどう・たけし)

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室総括。パナソニックAug Labリーダー。博士(工学)。早稲田大学理工学術院、大阪大学大学院医学系研究科での教員を経て、パナソニック入社。ヒトと機械のより良い関係に興味を持ち、一貫して人共存ロボットの研究開発、事業開発に従事。早稲田大学客員講師、福祉工学協議会事務局長、日本機械学会ロボメカ部門技術委員長、経済産業省各種委員なども務める。「ロボット大賞」「IROS Toshio Fukuda Young Professional Award」など国内外での受賞多数。