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IoTデータが変えるロボットのビジネスモデル【第6回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2020年12月7日

前回は、ロボットを現場で機能させるために必要なシステムインテグレーションの重要性と難しさについて述べた。今後は、より高いレイヤーでのシステム連携がビジネス拡大の肝になるという仮説も紹介した。今回は、実際にロボットを事業化する際、どのようにお金を儲けられるのかについて、最近よく耳にするRaaS(Robot as a Service)といったビジネスモデルも紹介しながら考えてみたい。

 ロボットは基本的には、モノを販売して終わる、いわゆる“売り切りビジネス”が主流だった。特に産業用ロボットなどは、主な顧客である大手製造業には投資能力が十分にあり、たとえ高額であっても投資が回収できると判断できれば購入してもらえた。少なくともこれまでは、そういう時代だった。

製品の低価格化が投資の判断期間を短縮

 ただし、投資回収期間は、年々短くなっているようだ。短いところでは1年とか1年半という期間で投資を判断している業界/企業も現れている。その背景には、ロボット業界においても海外メーカー、特に中国製が勢いを増してきていることがある。ロボットアームや自律移動ロボットなども、従来の国内製と遜色ない性能でありながら、コストが2分の1、3分の1という事例が生れてきている。

 例えば、中国のKEENON ROBOTICSが開発する搬送ロボットは、レストランなどを中心に既に6000台以上の導入実績があるとされる。その数や実績を考慮すると、感覚的には国内外の類似品と比べ、同社製品は半額レベルにはなっているはずだ。

 しかし、従前より述べてきたように、これからは大手製造業だけがロボットの購入者になる時代ではない。いくら本体価格自体が低下してきたとしても、高額投資が難しいユーザー層に向けた購入障壁を下げるモデルが必要不可欠である。リースなどが、その一例であり、オリックスレンテックや東京センチュリーなどが協働ロボットを中心にリースの仕組みを構築してきている。

 では、ロボット本体以外で稼ぐは可能だろうか。一般論として、消耗品ビジネス、保守ビジネスなどは利益源として有効である。ロボットは“動く”という特性上、車輪やバッテリー、可動部など、さまざまな部品が消耗しやすい。

 第4回で紹介したように、本体以外で稼ぐビジネスをロボット業界で最もうまく活用しているのは、手術ロボットの米Intuitive Surgicalではないだろうか。少し前のデータだが、同社の2018年の業績は、売上高が37億2400万ドル(約3900億円)、純利益は11億2700万ドル(約1200億円)である。

 この30%という驚きの利益率の源は、消耗品やサービス事業だ。売上高全体に占めるロボット本体の割合は約3割に過ぎず、残りは、消耗品(53%)とサービス(17%)である。ロボットアーム先端に着けるハンド(手)にあたる鉗子などの手術器具は、10回の手術で交換するなど交換頻度が高い消耗品になっている。

 一方のサービスは、ロボット本体の保守と、関連する医師や看護師などへの教育訓練だ。まさに消耗品のビジネスモデルを実現していると言える(詳細は著者記事を参照)。

 他のロボットにおいて、ここまで高頻度に交換が必要かつ高額な消耗品が存在しているケースは稀かもしれない。だが、消耗品に、さらに保守やトレーニングなども上手く組み合わせるという収益源の多重化は見習うところが多い。

そしてRaaSの時代が始まった

 近年、ロボットのビジネスモデルとして急激に主流になりつつあるのが、RaaS(Robot as a Service:サービスとしてのロボット)モデルである。バスワード化しているMaaS(Mobility as a Serviceサービスとしての移動)同様に、ロボットを購入し所有するのではなく、ロボットが実現する機能や価値、サービスに対して金銭を支払うモデルになる(図1)。

図1:ロボット業界におけるビジネスモデルの転換

 冒頭で紹介したリースという形態も、オペレーションリース、ファイナンスリースなどの違いはあるものの、大きな考え方としてはRaaSの1つだと考えられる。

 例えばSoftbankが2020年9月に発表した配膳ロボット「Servi(サービィ)」は36カ月縛りながら、月額9万9800円(税別)の利用料の中に、本体・付属品のレンタル費用やクラウドサービスの利用料、定期メンテナンスやヘルプデスク、故障時の翌日交換などのサービスを享受し続けるのに必要な機能がおおよそ含まれた月額モデルになっている。

 日本のZMPが手掛ける自動運転パーソナルモビリティ「RakuRo」は、買取価格を650万円/台としながらも、マップ作成やルート設定、現地チューニング、実証実験などのイニシャルコスト200万円からと、ランニングコストとしての月額12万円/台からをハイブリッドにしたビジネスモデルを構築している。

 イニシャルコスト(初期導入費)をゼロにして、月額定額制のサブスクリプションモデルを導入する企業も現れ始めている。

 例えば、物流ロボットのシステムインテグレータであるプラスオートメーションは、自社ではロボットを開発せず、さまざまなロボットメーカーの物流ロボットを使いながら、導入サポートから導入、運用・保守までを一貫して請け負うビジネスを展開している。物流現場業務そのものを請け負い、ロボットを使ったサービスとして実現しているのだ。