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顧客との共創がロボットの導入価値を高める【第8回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年2月1日

国家プロジェクトでの具体的な実装が始まる

 国の委員会などにおいても、ロボットが動きやすい環境をどのように作っていくのかは積極的に議論されている。

 経済産業省が2020年3月に発表した『ロボット実装モデル構築推進タスクフォース 活動成果報告書』は、ロボット導入のROI(費用対効果)が低くなる要因として、ロボット導入が「既存の環境・業務オペレーションを前提に」「ユーザーごとのバラバラな環境・業務オペレーションに合わせるべく、バラバラにロボット開発・カスタマイズ導入が行われている」ことを挙げる。

 ロボット導入に適した利用環境の整備に向けては、「ロボットフレンドリー」というキーワードを使いながら、複数の提案をしている。例えば、施設内のロボットとエレベーターの連携方法の標準化、ロボットがタスクを実行する施設環境の物理特性(材質、寸法、色など)のガイドライン化、ロボットが把持(吸着)し易くなる容器の物理特性(材質、色など)の標準化などだ(図2)。

図2:施設管理や小売業において「ロボットフレンドリー」な環境を作るための施策

 これらの一部は2020年度から、三菱地所やキユーピーといったユーザー企業を中心とした国家プロジェクトとして具体的な実装が始まっている(経産省のニュースリリース)。

 ところで読者は「ルンバブル」という言葉を聞いたことがあるだろうか。家庭用掃除ロボットの代名詞である「ルンバ」が掃除をしやすいような空間・状態になっていることを指す言葉である(写真1)。

写真1:家庭用掃除ロボットが掃除しやすい「ルンバブル」な部屋のイメージ

 ロボットが動きやすい環境作りは、上述したようなセンサーや通信技術を組み合わせた高度な技術を駆使することだけではない。掃除ロボットが掃除しやすいように部屋を片付けることや、掃除ロボットが通過しやすい脚の長さを持つソファを設置することも立派なロボットのための環境整備である。

環境整備の基本は工場の「5S」と一緒

 ここで改めて、なぜ工場における産業用ロボットは上手く動いているのかを考えてみたい。

 柵に囲われた限定空間において、金属など材料特性として剛性が高いものをハンドリングするというタスクは、技術として比較的確立し易かったと言えるだろう。別の言い方をすれば、ロボットが動作する環境条件(対象物やオペレーターを含む)を、ほぼ一定にできたからとも言える。

 工場において最も基本かつ大事にされている考え方の1つに「5S」がある。「整理、整頓、清掃、清潔、躾」の5つを徹底することだ。この考え方は、決して人手による製造作業を、安全に、高品質で、効率良く実施するためだけにあるのではない。

 「ルンバブル」の事例がそうであるように、5Sが徹底された現場はロボットが作業しやすい環境が徹底されているとも言える。逆に、工場以外は、なかなか5Sが徹底された環境や工程がなく、ロボットがパフォーマンスを発揮しにくくなってしまうのだ。

 ロボットの性能を上げるために、やみくもにロボットにコストを掛けるのではなく、環境としても、タスクとしても、ロボットが動きやすいものに仕上げていくことが、ロボットを開発・導入・運用するための総コストの低減につながっていく。

 そのときに「5S」、すなわち環境と対象、工程が「整理、整頓、清掃、清潔」された状態になっているか、作業者が「躾」された状態になっているかを考えることが大きな示唆を与えてくれる。

 ロボット本体にどこまでの性能を求め、環境側にどれくらい手を入れれば総コストが最も安価になるのかについては、技術の進化に伴い日々変化していくだろう。だからこそ、顧客との共創活動において、ロボット側と環境側のそれぞれで「どこまではできるけれど、そこはできない」という議論や実証を繰り返しながら、最適なバランスを探索する必要がある。

 そうした顧客との共創から、自動化のROIが高いロボットソリューションが多くの産業で数多く生まれ、ロボット業界が広がっていくことを楽しみにしている。

 次回は、顧客との共創活動としての実証実験について見ていきたい。

安藤健(あんどう・たけし)

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室総括。パナソニックAug Labリーダー。博士(工学)。早稲田大学理工学術院、大阪大学大学院医学系研究科での教員を経て、パナソニック入社。ヒトと機械のより良い関係に興味を持ち、一貫して人共存ロボットの研究開発、事業開発に従事。早稲田大学客員講師、福祉工学協議会事務局長、日本機械学会ロボメカ部門技術委員長、経済産業省各種委員なども務める。「ロボット大賞」「IROS Toshio Fukuda Young Professional Award」など国内外での受賞多数。