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顧客との共創がロボットの導入価値を高める【第8回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年2月1日

前回は、ロボットの“魅力”と“魔力”として、ロボットの活用を目的化せずに、顧客の困りごとを解決するための手段であることを忘れないことの重要性について述べた。今回は、自動化を目指すロボットを、よりスムーズに現場で活用するための顧客共創の重要性について考えてみたい。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)への関心が高まるにつれ、「顧客との共創」「オープンイノベーション」などコラボレーションに関する言葉が頻繁に聞かれるようになった。では、ロボットの研究開発や事業開発において、顧客と共創するメリットとは一体何であろうか?

 初期段階の利点としては、現場の状況を詳しく知ることができ、顧客の本当の困りごとを理解できることがある。開発段階であれば、プロトタイプを評価してもらうことで、それが本当に使えるか使えないかを実際の現場で評価できる。さらには、実際の運用の中でユーザビリティを高められるという利点もあるだろう。

顧客との共創がロボットへの技術要求レベルを下げる

 筆者自身、これまでに多くの顧客との共創活動に取り組む機会があった。実際に現場で使えるものを作るためには非常に有用だった。特に、先行する類似品がないような新規のプロダクトを開発する場合には、顧客の側も明確な回答を持っているわけでないことが多い。共創プロセスの中で、互いのイメージを合わせていくことが必要不可欠な行為になっていたと言っても過言ではない。

 ロボットのパフォーマンスを引き出す環境を作ることも顧客との共創の重要なメリットである。本連載で何度も述べてきたように、ロボット技術/AI(人工知能)技術などの進化により、多くのタクスが実行可能になってきた。ただし「お金を掛ければ」という条件付きである。

 そこで重要になってくるのは、「どのようにしてパフォーマンスを維持しながら総コストを下げる」かという視点だ。つまり、性能が高いセンサーを多数利用するなどロボット本体にコストをかけ過ぎるのではなく、顧客とのコラボレーションによって、ロボットがタスクを実行しやすい環境を作ることで、ロボットに必要な能力、そしてロボットの本体価格を下げるという発想である。

 「何をロボットにさせ、人は何をするのか」を決めることの重要性は、これまでも指摘してきた。多くの文脈においては、「すべてのタスクをロボットにさせることは非現実的なことが多いため、タスクレベルでロボットと人の役割分担をしっかりしましょう」というメッセージであった。

 ただし、たとえタスクレベルではロボットが実行すべきと設定されるタスクであっても、ロボットがタスクを安定して実行するための環境を整えるのは人側のミッションである。

 逆に、人や社会が、どれだけロボットの動作環境を整えられるかを前提に、人とロボットのタスクの役割分担は変わってくるとも言える。ロボットを導入する際は、「タスク分担」と「動作環境整備」はセットであり、人が実施する役割だと考えても良いだろう。

 この役割を人側がまっとうするためには、メーカーもしくはインテグレーター側からは「技術的にどのような内容であれば、いくらで実現できるのか」を、ユーザー側からは「どこまで環境を整えられるのか」をそれぞれが明確にしたうえで両者を擦り合わせていく必要がある。メーカーだけでもユーザーだけでも難しいことが多いからこそ、共創活動として進める価値が高くなる。

環境を知能化しロボットが動きやすい環境を作る

 ロボットがタスクを実行しやすい環境という話になると、専門家からは「環境構造化」「空間知能化」というキーワードが出てくるかもしれない。ロボット単体ではなく、「ロボットのための周辺環境を整備することによって性能を発揮させる」という考え方だ。

 ロボットが動作する環境側にセンサーを仕込んだり、タスクの実行に必要な複数の情報を格納したマーカーを物体や空間に配置したりすることで、ロボットのタスク実行を支援する。こうした研究は、東京大学や九州大学などが積極的に進めている。

 例えば、信号のある交差点を渡る移動ロボットをイメージしてみてほしい。ロボットに搭載されたカメラで信号の色を認識し交差点を渡ろうとすれば、もちろん簡単に認識できるときもあるだろうが、大雨・大雪そして強い西日で信号が見えにくくなる場合などにも対応しなければならない。ロボットの前に人が立ち、信号が見えなくなることもある。実用レベルで安定した認識性能を実現するのはかなり大変だ。

 これに対し、信号機が自身の状態を無線により周囲に発信する仕組みがあれば、ロボットはその信号を受信することで、信号が青なのか赤なのかを知ることができる。もちろん、この方法でも様々な課題はあるが、ロボット側ですべてを認識するよりは容易だと言える。

 信号と似たような問題として、筆者らも病院内搬送ロボット「HOSPI」を施設に導入する際に、転落の危険がある階段の前まで来たことをロボット側に知らせるシステムを使ったことがある。その際は階段の前に、可視光通信が可能な照明を設置した(図1)。

図1:搬送ロボットにおける環境整備の例