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「まず使ってみる」が目的化したPoCは結実しない【第9回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年3月8日

ロボットを客寄せパンダで終わらせない

 PoCの数が増えること自体は悪いことではない。ただ問題は、冒頭に述べたように、実導入につながる案件が少ないことだ。大量のPoCは、それ自体が開発側に負荷を掛かるだけでなく、なかなか実導入につながらなければ、身体的にも財務的にも疲弊していく。いわゆる「PoC疲れ」「PoC死」と呼ばれる状況に陥ってしまう。

 PoCは、検証対象が現場で実施に使えるかどうかを見極めるために、現場に実機などを持ち込んで実施する検証作業である。本来の意味的には、概念検証と現場での実証は違うかもしれないが、ロボットの導入検討の現場では、同じ意味で使われているケースが、ほとんどだ。

 黎明期にあるロボット活用において、適切なユースケースの探索や費用対効果の検証のために、複数回にわたる実証活動が必要になることは避けられない。実証活動自体が、ある意味、広報活動になり、これまで接点がなかった顧客候補へアプローチするためには有効なケースが多々あることは理解できる。

 加えて、世の中の開発手法のトレンドとしても、仕様をしっかり決めてから取り掛かるウォーターフォールからアジャイルに比重が移る中で、メーカー側も現場で評価しながら試行錯誤的に開発を繰り返すサイクルが回すことが推奨されるようになっている。この考え方はPoCとの相性も良いことも、PoCの数が増える背景にはあるだろう。

 ただロボットのPoCでは、未活用領域において「まず使ってみる」ことが目的化しているケースが多い。そうしたPoCにおいては、ユーザーもメーカーも色々と知見は貯まるものの、なかなか導入に至らない。知見の蓄積は重要だが、それが続くだけでは理想にはならない。

 では、どうすれば「PoC死」を避けられるのか。筆者は、PoCを以下の4つのフェーズに分け、どのフェーズにいるのかを意識してPoCを実施することが大事だと考えている。

第1フェーズ: 何に使うかをしっかり考える(企画検証)
第2フェーズ: 技術的に対応できるか考える(技術検証)
第3フェーズ: オペレーションに組み込んで効果を検証する(効果検証)
第4フェーズ: PoC死を避ける(導入検証)

図1:PoC(概念検証)における4つのフェーズ

 各フェーズにおいて、何に取り組めばよいのかについては次回、説明していく。

安藤健(あんどう・たけし)

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室総括。パナソニックAug Labリーダー。博士(工学)。早稲田大学理工学術院、大阪大学大学院医学系研究科での教員を経て、パナソニック入社。ヒトと機械のより良い関係に興味を持ち、一貫して人共存ロボットの研究開発、事業開発に従事。早稲田大学客員講師、福祉工学協議会事務局長、日本機械学会ロボメカ部門技術委員長、経済産業省各種委員なども務める。「ロボット大賞」「IROS Toshio Fukuda Young Professional Award」など国内外での受賞多数。