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「まず使ってみる」が目的化したPoCは結実しない【第9回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年3月8日

 前回は、ロボットの導入確度を高めるためには、顧客との共創活動が需要であり、それによってロボットが性能を発揮しやすい環境を整えられると述べた。ただ実際には、実導入に向けて実施されるPoC(Proof of Cocept:概念検証)の段階で導入が止まってしまう「PoC死」に陥るケースも少なくない。現場でのPoCの確度を高めるためのポイントについて前後編で考えてみたい。

 ロボット関連のアクティビティが盛んになっている。ロボットに関するニュースがメディアに掲載されない日が、ほとんどないほどだ。本稿を執筆している2021年2月下旬にも、「小売店舗が警備ロボットを実証」や「ビル内でエレベータを使った配送ロボットの実証」などの多くのニュースが報じられている。

 特にビルの掃除ロボットなどは、未活用領域から活用領域への変遷が間近だと言えそうだ。例えば、ソフトバンクの「Whiz」などだ。ZMPもホームページには「運用費用:月10万円/台~、初期費用:500万円~(マップ作成・ルート設定・現地チューニング・実証実験)」と費用を設定・明示している。

 費用などを明示できるのは、メーカー側にロボットの導入・運用ノウハウが貯まり、事例のモデル化もしくはカテゴリー化が進んでいるからにほかならない。こうした変化は、個人的には良い現象だと思う。

 それでもロボット関連ニュースの多くは、上記の領域を除けば、実証実験に関するものだ。筆者の実感としても、急激に「現場を自由に使えるので、ロボットによって、どんなことが実現できるのかを検証したい」という問い合わせを受ける件数が増えているように感じる。

 そして、ロボットが「実導入された」「本格入された」というニュースは、まだまだ少ないのが実態だ。つまり、実証までは進むものの、なかなか導入には至らないというケースが多いのだ。

過去はロボットの安全性の検証が重要だった

 「サービスロボット」という概念や存在が珍しかった10〜20年ほど前は、ロボットを現場で実証すること自体に大きな価値があった。工場と違い、人とロボットが共存する環境で、どのように安全を確保していくのかが大きな課題だったからだ。海の者とも山の者ともわからないロボットを実現場に持ち込むこと自体、現場には高い障壁があったのである。

 例えば愛知県で2005年に開かれた「愛・地球博」では、掃除ロボットや警備ロボットなど多くのロボットが長期間にわたり使用された。表向きには“万博”という場を通して、来場者にロボットと共存する未来社会とは、どんなものなのかを体験してもらうことが目的だったようにも感じる。

 だが、その裏側というか研究開発サイドでは、万博という多くの人が存在する環境において、どのような開発・運用プロセスを踏めば“安全”いうものを実現できるのかを検証しようとしていたと思う。

 当時の状況については、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)からのプレスリリースをはじめ、多くのレポートが報告されているので、興味のある方は、それらを調べてみてほしい。

 愛・地球博といった事例や各種の検証結果を踏まえ、ロボットに対する規格が設定されている。開発を対象にした「ISO13482」や運用に関する「JIS Y 1001」などだ。ISO13482は生活支援ロボットの安全性に関する国際規格、JIS Y 100は、サービスロボットを活用したロボットサービスの安全マネジメントシステムに関する要求事項を定めている。

 さらに、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)は、生活支援ロボットの設計から実証実験、販売および運用などまでの各段階に対し、守るべき事項を特に安全という視点から噛み砕いた形でガイドラインにまとめ発行している。

 つまり、何をすれば安全を担保しながら、実社会に導入できるのかという観点からは、ロボットに関する課題は、多くの関係者の努力により、クリアになってきている。ロボットを使う実証実験を実施するための環境は、ここ数年で随分と整った。ロボットを使ったPoCが大量に実施されている背景には、こうした状況の変化がある。