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「もう少し検討したい」はPoC死の分かれ道【第10回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年3月22日

第3フェーズ:オペレーションに組み込んで効果を検証する(効果検証)

 シンプルに運用を検証するフェーズである。想定したオペレーションに完全に組み込んで評価する。オペレーションに組み込むことが大事であり、すべての行為は利用者に委ねる必要がある。少なくとも1カ月程度は実運用にロボットを組み込んだうえで、効果をしっかり測定することが重要だ。

 第3フェーズではまず、第2フェーズで洗い出した、ロボットにはできないことやエラー時の対応なども含め、どのような運用で全体プロセスを実行していくのを計画することが大事だ。開発側も実運用を想定してトラブル対応に臨むべきである。どのようなメンテナンスサービス体制が取れるのか、どれくらいの頻度でトラブルが起きるのかも検証すべきである。

 さらに、第3フェーズを始める前には、何ができれば導入するのかの基準となるKPI(重要業績評価指標)を、利用者側と開発側がきちんと合意しておくことが非常に重要だ。売り上げを上げるための導入なのか、コストを下げるためなのか、それらの評価指標は何なのかなどが曖昧だと、いつまでも「うーん、なんかイマイチ」として、微妙に条件を色々と変えながら検証を試し続けることになる。

 現実問題としては、KPIを利用者側と開発側が握り切ることが難しいシチュエーションが多々ある。だが、少なくとも握ろうとし続けることが大事だ。ここでKPIが握れない場合は、「現場の課題を解決しよう」という想いではなく、「ロボットを使ってみる」ことが目的になっていると考えたほうが良い。

 握ったKPIが達成できなければ、最初に戻って、もう一度考え直すべきである。思ったより効果が出ない、効果を出そうとするとコストが掛かるなど様々な結果に対し、ロボットの性能を上げる必要があるのか、運用を見直す必要があるのか、あるいは、そもそもロボットには向いてない作業ではないのか、のいずれかの対応を取らなければならない。

第4フェーズ:PoC死を避ける(導入検証)

 第3フェーズでKPIを満たしたとても、色々な理由で導入に至らない、もしくは「もう少し検討したい」という要望が出ることがある。こうなると無限ループに陥りPoC死に至る可能性が高まる。

 「PoCを続けない」というのも大切な判断である。多くの場合、リソースが限られているケースがほとんどだろうからだ。それでも、開発側もしくは利用者側のいずれかが、どうしても粘りたいケースもある。その場合は、短期間に絞らず6カ月くらいをかけて、しかも有料で取り組むのが良い。

 6カ月という期間がポイントである。3カ月程度でも良いが、本当の意味で業務に組み込まれ必要性があるロボットであれば、3〜6カ月も経てば、ロボットのない業務には戻れないはずだ。つまり、もし効果があるのであれば基本、なくてはならない存在になっている。

 費用については、できれば第3フェーズから有償で実施すべきであり、ほぼ実導入と同程度の費用をかけるのが理想だ。そこまでの金額が無理であっても、利用者がそれなりの費用を負担しながら継続するべきである。利用者側が1円の費用負担も難しい場合はやめたほうが良い。

利用者との議論を続けることが実導入への第1歩

 ロボット導入において大事なのは、PoCという言葉通り「コンセプト(Concept)は何か?」すなわち「どういうタスクをロボット化するのか」と、「それをどうやって、何をもって検証(Proof)できたとするか?」の2点について、利用者と開発者がしっかりと合意することである。当たり前の結論だが、これこそがPoC死を避けるポイントになってくる。

 筆者自身の実証活動を振り返ったときに、今回説明した、すべてのことをうまくできているわけではない。むしろ、できていなことのほうが多いかもしれない。大事だと思っていても、なかなかできないのも現実だ。それでも「重要だ」という意思を持ちながら、顧客候補を含めて議論していくことが実導入への第1歩になるだろう。

 次回からは、ロボットの価値として、自動化による生産性向上以外の「自己拡張による幸福度向上」について見ていく。

安藤健(あんどう・たけし)

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室総括。パナソニックAug Labリーダー。博士(工学)。早稲田大学理工学術院、大阪大学大学院医学系研究科での教員を経て、パナソニック入社。ヒトと機械のより良い関係に興味を持ち、一貫して人共存ロボットの研究開発、事業開発に従事。早稲田大学客員講師、福祉工学協議会事務局長、日本機械学会ロボメカ部門技術委員長、経済産業省各種委員なども務める。「ロボット大賞」「IROS Toshio Fukuda Young Professional Award」など国内外での受賞多数。