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「もう少し検討したい」はPoC死の分かれ道【第10回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年3月22日

前回は、ロボットの安全性が確保されてきたことでPoC(Proof of Cocept:概念検証)が増えていると説明した。ただ一方で、実導入につながらない「PoC死」の現実にも触れた。今回は、どのようにすればPoC死を避けられるかについて整理する。

 PoC(Proof of Concept:概念検証)は、検証対象が現場で使えるかどうかを見極めるために実機などを現場に導入して実施する検証作業である。前回、そのPoCが実導入につながらない「PoC死」について、現在のPoCの多くが「まず使ってみる」ことが目的化しているケースが多いことを指摘した。

 本連載の第7回で述べた『ロボットの“魅力”と“魔力”がビジネスを見誤らせる』における“魔力”が最も影響するのが、メディアへの露出も多くなるPoCフェーズでもある。

 PoC死を避けるために筆者は、PoCを図1にある4つのフェースに分け、各フェーズの違いを意識することが大事だと考えている。対策は何も特別なことではなく、当たり前のことばかりだ。だが、ロボットの“魔力”に対する自戒の意味も込めて整理したい。

図1:PoC(概念検証)における4つのフェーズ

第1フェーズ:何に使うかをしっかり考える(企画検証)

 まずはロボットが動いている様子を見てもらう、できるだけ多くのステークホルダーに見てもらう。そして「こんな感じか」とイメージをつかんでもらうフェーズだ。

 最近のロボットブームにより、現状のロボットの実力が、どの程度かは以前より理解されるようにはなった。たが、その理解は、あくまでもロボットに積極的に興味を持っている人の間にあるだけである。ある施設で「ロボットを使いたい」と思っている人がいたとしても、その施設の関係者の約9割は、ロボットとは何かを知らないと考えて良い。

 ロボットリテラシーが極めて高い利用者も増えているのは紛れもない事実だ。だが総じてロボットについては、研究者が想像している以上に一般社会には知られていない。ロボットの導入に向けては、このことを強く意識すべきである。

 第1フェーズは、そうしたロボットを知らない大多数を含めて、会議室でもどこでも良いので、業務の空き時間などに、ロボットを見たり触ったりしてもらうフェーズだ。その上で「このロボットは、どのように使えるか」を考えてもらうことがゴールになる。

 ここでは、必ずしもロボット本体がなくてもよいかもしれない。実機があるほうがディスカッションが盛り上げることは間違いない。だがスケッチやモックアップなどで十分なこともある。

 この時に大事なことは、ロボットに実施させようとしている行為に、どの程度のリソースが掛けられているかを並行して見積もっておくことだ。ヒヤリングで済むこともあれば、実際に観察してみないとわからないこともある。ヒトやモノを、どの程度必要としている行為かを見極める必要がある。

第2フェーズ:技術的に対応できるか考える(技術検証)

 フェーズ1で決めた「やりたいこと」が、技術的に本当にできるのか現場で検証するフェーズだ。あくまでも技術的にできるかどうかがを問う技術の検証である。

 第2フェーズの運用は、技術側が担当するのが良い。もちろん、どんなユースケースかは大事であるし、ときに意地悪なテストを無意識に実行する利用者側の協力は必要不可欠だ。

 シミュレーションなどによる検証は事前に可能な限り実施しておいたほうが良い。そのために必要なデータ取りは、フェーズ2の前に実施しておき、実際の想定環境で動くかどうかをしっかり検証する。そして「動く」ことを確認、あるいは、どのような場合には動かないのかを把握することがゴールになる。

 現場でしかわからないことは多々ある。対象物の特性のバラツキ具合とか、環境の明るさや人の多さなど、特に時間的に変化する環境条件は性能に影響することが多い。これらは技術として性能をきっちり見極める必要がある。

 結果として、ロボットでできることは何か、できないことはないかを理解し、導入を検討しているタスクを本当にロボットにやらせる必要があるかどうかを判断できれば良い。

 「本当にロボットにやらせる必要があるか」という議論は第1フェーズでも大事だ。だが第1フェーズでは主に、ロボット以外に代替手段があるのかを考えるのに対し、第2フェーズでは、「検証したロボットの性能でも本当にロボットにやらせるのか」が判断事項になる。