- Column
- Well-beingな社会に向けたロボットの創り方
高まるロボティクスニーズが求めるオープンイノベーション【第20回】
アカデミアとの連携はN:Mのコンソーシアム型に
オープンイノベーションでは、図1の右側に示したように、件数を増やすだけではなく、そこで得られた技術と知見をしっかりとストックしていくことも重要である。
そこでは、インタフェースやアーキテクチャーを十分に考慮しながら、モジュールとして蓄積していくことで、顧客に新たなお困りごとが生じた際に、迅速に対応できる可能性が高まっていく。Robot Operating System(ROS)などのOSS(オープンソースソフトウェア)を積極的に活用していくことも重要だ。
一方で、ロボティクスが扱う技術領域が細分化・広域化する中では、事業競争力や国際競争力の強化に向けて、特定分野を深堀するアカデミアとの連携の重要性も増してきている。従来のような企業と大学が1:1の共同研究という形も多く存在するが、複数の組織がコンソーシアムを形成し共同で課題解決に取り組む形が増えてきている。
例えばロボット業界であれば、技術研究組合 産業用ロボット次世代基礎技術研究機構(ROBOCIP)が2020年に設立された。ロボット事業を手掛ける9社が運営する。ROBOCIPでは、各社が共通的かつ協調的に取り組む必要のある先行技術を検討し、連携する複数の大学や国立研究開発法人と共同で研究開発を推進していく。
具体的な研究開発項目として、「モノのハンドリング及び汎用動作計画に関する研究」「遠隔制御技術に関する研究」「ロボット新素材とセンサ応用技術に関する研究」を定めている。多品種少量の生産現場をはじめ、ロボットの未活用領域にも対応可能なロボットを実現するための要素技術の確立を目指す。
今後も、このような形のN:M型オープンイノベーションは増えていくと思われる。複数のステークホルダーが集まるからこそ、独占禁止法などには十分に配慮しながらも、うわべの議論だけで済ませることなく、産業側のニーズを適切かつ詳細にアカデミア側にも伝え・共有することの重要性が高まっていくものと考えられる。
問題がさらに難しくなる「オープンイノベーション2.0」
N:M型のオープンイノベーションがさらに進化し、Web型やネットワーク型のオープンイノベーション事例も増えてきている。テクノロジーによるWell-beingの実現を目指し、著者らが推進している「Aug Lab」の取り組みも、Web型というかコミュニティ型の体制を取っている。
このような流れは世界的な潮流でもある。2013年頃からは欧州を中心に「オープンイノベーション2.0」と呼ばれている。
Web型に切り替わっている背景には、解くべき問題の難しさが増していることがある。従来は、例えばロボティクス分野であれば前述したように、“いかに速く、いかに正確に”といった工学的課題が主だった。
これに対し、Aug Labで問うている「どのようにすればロボティクスは人や社会の豊かさに貢献できるか?」といった課題のように、工学的な視点のみでは解決できない、人文科学や社会科学といった複数の領域を融合させなければ解決できないケースが増えてきている。
問題の複雑化は、ロボティクス領域にとどまらない。昨今バスワードになっている「SDGs(持続的な開発目標)」も同様だ。「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」「海の豊かさを守ろう」などの17個の目標のいずれもが単一の技術や単一の視点だけで解決できる問題ではない(図2)。複数の視点から様々な専門家が連携して挑んでいくために、Web型のコミュニティベースの取り組みを推進していく必要がある。
言い換えれば、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代とは「解くべき問題自体が非常に見えにくくなってきている時代だ」と言えるかもしれない。文字通り、不確実で、複雑で、曖昧な問題が変動的に出現してくるのだ。
つまり、問題を設定すること自体に価値がある。良い問題を設定できれば、自然と多くの専門家や熱い想いを持った人材が集まってくる。「良質な問いはコミュニティを創り上げる」のである。