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  • 新規事業開発でデジタル課題を発生させないための3条件

10→100フェーズ:事業拡大に伴うシステムの拡張限界と機能間調整問題を解決する

畠山 和也(本気ファクトリー 代表取締役)
2020年9月18日

実践事例:H.I.F.の BaaSプラットフォーム「Fimple Platform」

 マイクロサービス化を徹底的に推し進めている会社として挙げられるのが決済代行業のH.I.F.です。決済代行サービス「Fimple決済」の開発から始まり、現在は「FimplePlatform」と名付けたBaaS(Banking as a Service)の開発に取り組んでいます。FimplePlatform上で、Fimple決済を含む、さまざまなFintechサービスを連携させる構想を描いています。

 ただH.I.F.でも、当初はプラットフォーム化までを描けておらず、Fimple決済はあくまで1つのWebサービスとして開発・ローンチしました。他のシステムやプラットフォームとの連携は想定されていませんでした。

 その後、BaaSプラットフォーム化が決定します。同時期に入社した現CTO(最高技術責任者)の東 万里子 氏が、まず取り組んだのがFimple決済の拡張限界を調べることです。

 「拡張限界を調べた結果、Fimple決済のプラットフォーム化には、いくつか問題があることがわかり、Fimple決済とは別にプラットフォームを新たに開発することにしました。Fimple決済は、サーバーやセキュリティ面でも大規模化を想定していない作りだったので、拡張限界を個別に解消するよりは、1から作ってしまったほうが早いと判断したからです」

 さらに同社は、プラットフォーム開発と並行して国内初となるネオバンク「FimpleBank」の開発も進めています。ネオバンクとは「自社では銀行免許や勘定系システムを持たずに所属銀行のシステムとAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)などで連携してバンキングサービスを提供する」新しい銀行の形態です。

 一口にバンキングサービスといっても、残高照会や振込といった基本的な機能から、プラットフォーム上で借入を申込むクラウドレンディングや当座貸越サービスなど、想定しているサービスは多々あります。これらは顧客のニーズや状況を踏まえて順次投入すべきサービスですから、逐次機能追加されていく計画です。

 またFimpleBank内の機能追加だけでなく、Fimple決済など他のFintechサービスともFimplePlatfomを通した連携が必要になるため、複雑な機能追加をここ数年続けることにもなります。この状況を踏まえ、東氏が注力したのがマイクロサービス化です。

 「事業開発の状況に応じて柔軟にシステムを開発していくには、徹底したマイクロサービス化は避けられないと考えました。システム開発の遅れによって、事業開発が遅れることは許されないと考えています」と東氏は話します。

10→100フェーズでの開発の遅れは初期段階よりも影響が大きい

 0→1フェーズや1→10フェーズでは、「顧客課題」と「解決する製品/サービス」をはじめ、事業を成り立たせる要素に不明確な点も多く、事業計画自体に大きな不確実性があるのは、ある意味当然と言えます。

 しかし、10→100の事業拡張フェーズに入ると、それらが明確になっていて確実性が増しています。これに伴い、企業内新規事業であれば、上長や関係部署と合意した事業計画が、スタートアップの場合であればVCへのコミットメントなどが、さまざまな縛りが発生しているはずです。

 上述の通り、マーケットには多数の競合が発生し、競争が激化しているはずです。上場審査においても事業計画と実態の乖離はガバナンス上の大きな問題になります。こうした障害に気づかずに事業計画に遅れが出ることの影響は、それまでのフェーズとは比べ物になりません。

 「フェーズの変化に経営陣の認識が追いつかず問題が発生する」という事態は、新規事業開発の現場ではITの文脈以外でも頻発する問題です。しかし、それは今のフェーズだから許されているのだと認識し、次のフェーズに入るまでに準備しておくことが不可欠です。

 そのためにも、システム開発における開発遅延の原因を解消しておくことは、新規事業開発を成功させるうえで極めて重要な要素になります。システム開発特有の論点を理解して事業開発に臨むことが、新規事業開発の成功確率を高められるでしょう。

畠山 和也(はたけやま かずや)

本気ファクトリー 代表取締役。2005年ソフトバンクBB(現ソフトバンク)に新卒入社以後、リクルート、スターティアラボ、ラクスルにて新規事業に携わる。2014年に独立以後は博報堂や三井不動産など主に大企業の企業内起業を支援する傍ら、パラレルキャリア人材として複数のスタートアップに株主/役員として参画している。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。