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  • 新規事業開発でデジタル課題を発生させないための3条件

0 → 1フェーズ:顧客課題が先か、サービス/プロダクトが先か

畠山 和也(本気ファクトリー 代表取締役)
2020年9月4日

新規事業開発において近年は、そのプロセス全体に関わる形でデジタル技術の観点が欠かせなくなってきています。デジタルトランスフォーメーション(DX)はまさに、事業とデジタルとを同時に考えなければならない取り組みです。しかし、新規事業開発のプロセスは、よく「0 → 1(ゼロイチ)」「1 → 10(イチジュウ)」「10 → 100(ジュウヒャク)」と呼ばれるように大きく3つのフェーズがあり、各フェーズで考えなければならないポイントが異なっています。今回は、「0 → 1(ゼロイチ)」フェーズにおける事業とデジタル技術について考えてみます。

 大企業においては今、いずれの形かで新規事業開発に取り組んでいると言って差し支えないでしょう。その新規事業開発において考えるべきことは多岐に渡ります。製品/サービスのデザインやデリバリーといったプロダクト面から、プロモーションや営業、サポートといった対顧客面、キャッシュフローや投資額といった財務面、採用や評価といった人事面など、ざっと挙げるだけでも、これだけのことを勘案する必要があります。

 特に最近は、シェアリングエコノミーなどデジタル技術が事業の根幹を形成する新規事業が増えています。デジタルの観点からの検討は不可欠です。ただ日本においては、デジタル技術に明るい経営人材が大幅に不足しているという現実があります。経営にデジタル技術をどのように取り込んでいくか、すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することは、現在の日本経済の大きな課題だと言えるでしょう。

新規事業開発は大きく3つのフェーズに分かれる

 上述したように事業には、さまざまな要素が絡み合っています。これらの要素が適切な構成になったときに初めて事業は成立します。つまり新規事業開発とは、この「経営要素の最適な組み合わせを発見する取り組み」です。では、数多くある要素の組み合わせの中から、事業が成立可能な組み合わせを発見するにはどうしたら良いのでしょうか。

 「困難は分割せよ」とはフランスの哲学者、デカルトの言葉です。新規事業開発もフェーズごとに分けて考えるのがセオリーになっています。フェーズの切り分け方は種々ありますが、最近は以下の3つのフェーズに区切って考えるケースが増えています(図1)。

図1:新規事業開発における3つのフェーズ

0 → 1(ゼロイチ)フェーズ: 「顧客課題」と、「その課題を解決し、かつ実現可能なプロダクト/サービス」のセットを発見するフェーズ

1 → 10(イチゼロ)フェーズ: 0 → 1フェーズで発見したセットをコアに、ビジネスモデルを作り上げるフェーズ

10→100(ジュウヒャク)フェーズ: 1 → 10フェーズで作りあげたビジネスモデルにより、新規顧客をスムーズに獲得し事業規模を高速に拡大していくフェーズ

 今回は経営にデジタル技術を取り組む際の条件1として、0 → 1フェーズを考えます。新規事業開発における最初のフェーズです。

 このフェーズでやるべきは、先に説明したように「顧客課題」と「顧客の課題解決し、かつ実現可能なサービスプロダクト」のセットを発見することです。つまり、「誰が顧客なのか」「その顧客の課題は何なのか」を明らかにするとともに、実現可能なサービスプロダクトによって、その課題を解決できなければなりません。

 たとえば、「東京-大阪間を1分で移動したい」というニーズを持つ人は少なくないと思いますが、現在の人類が持つ技術力では実現不可能なため、事業化はできません。発見された課題が事業開発に結びつくには、それを実現できるシーズが経済性も含めて存在する必要があるのです。