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- 新規事業開発でデジタル課題を発生させないための3条件
1→10フェーズ:汎化と特化を見極め技術負債の発生を抑える
前回、新規事業開発における「0 → 1(ゼロイチ)フェーズ」は、顧客の課題と、その課題を解決し、かつ実現可能な製品/サービスの組み合わせを発見する段階であり、SDK(ソフトウェア開発キット)の活用を紹介しました。続く「1 → 10(イチジュウ)フェーズ」は、ビジネスモデルを作り出す段階です。今回は、この「1 → 10フェーズ」における事業とデジタル技術について考えてみます。
試行錯誤のうえ、「顧客課題」と「それを解決し、かつ実現可能な製品/サービス」のセットが、おぼろげながらも見えてくれば、いわゆる「0 → 1フェーズ」は卒業です。事業のコアが固まったと言えるからです。
顧客の声をどれだけ製品/サービスに取り込むか
この状態では、自社の製品/サービスは、顧客課題に十分にフィットしているとは言えないものの、顧客が自社の製品/サービスを使い始めてくれ、いくばくかのお金も払ってくれています。続く「1 → 10(イチジュウ)」に移ってくれば、システム開発もより本格化しなければなりません。
前回の定義を振り返れば、1 → 10フェーズは、0 → 1フェーズで発見したセットをコアに、ビジネスモデルを作り上げるフェーズです。「0→1フェーズ」で発見した「顧客課題」と「それを解決し、かつ実現可能な製品/サービス」のセットを元に、「集客、営業、製造、納品、サポート、リピート促進」といった一連のビジネスプロセスを円滑に回せる状態を作ります。
このときに問題になってくるのが、「どこまでの課題を製品/サービスの対象に取り込むか」です。この問題への対処を誤ると、後々大きな問題になる「技術負債」が発生します。
技術負債の定義はさまざまですが、ここでは「本来、変数として設計しなければならなかったものを定数にしてしまうなどで、後の開発を複雑かつ困難にしてしまうシステム設計上の不備」とします(図1)。
技術負債が多ければ、どこかの段階でシステムを作り直す必要が出てきます。結果として、事業開発は遅れてしまいます。「1→10フェーズ」のデジタル課題は、いかに技術負債を最小化し事業開発を進めるかだと言っても過言ではありません。
場当たり的な開発が技術負債を生む
では、なぜ技術負債が発生してしまうのか。それは、新規事業開発では、「どの顧客に対して、どのような製品/サービスを提供すればビジネスがスケールするか」に対し、最終的な形が決まっていないからです。
「1→10フェーズ」での事業開発において、ヒントになるのは当然ながら顧客の声です。このときの製品/サービスは、まだまだ未熟な状態なだけに、顧客からは、気づきのレベルから本格的なクレームまで、さまざまな指摘が届きます。
多くの場合、その時点の是非で、これら指摘の要否を判断し、製品/サービスの開発を進めることになります。一般にシステム開発では、その最終形を見据えたうえで、詳細を設計していくのが理想です。
ところが新規事業開発では、最終形のシステムがわかりません。どのような顧客と課題に対し、どのような製品/サービスを提供すればビジネスがスケールするのかが、明確かつ詳細に判明していることは、まずあり得ないからです(図2)。
結果、良く言えば「臨機応変」、悪く言えば「場当たり的」な開発をせざるを得ません。そうした進め方をしていると、必ず「技術負債」が発生します。