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  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

Discover:真に取り組むべき領域の発見のための実践ポイント【第6回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2021年1月21日

アクティビティ2:ビジネス目標を定義する

 第5回、ビジネス目標を定義する際は、自社のミッションやビジョン、戦略などを考慮したうえで、「なぜ自社として取り組むのか」という“Why”に答えることの重要性に触れた。

 この場合、トップダウンで決めて現場に通達するのではなく、現場を交えて共に探っていくというプロセスが重要だ。メンバーの納得感を生み、活動の原動力になるためである。では、ビジネス目標を実際に立てるにあたっては、どのような観点で検討するのが良いだろうか。

アクションa :自社の慣例に基づき、時間をかけて売上必達目標を定義する
アクションb :自社の保有する資産から何ができるかを考える
アクションc :役員や推進するメンバーを交えてありたい姿を検討する

 いずれも状況によってはあり得るが、イノベーションを構想する段階においてIBM Garageではアクションcを重視する。

実践ポイント:ありたい姿から活動目標を設定し、対話とアクションを促す

 ここでの実践ポイントは、過去の慣例に囚われずに社会や業界をどうより良くしたいのか、その中で自社はどうありたいのか、という観点を取り入れることである。デジタル化がますます進展し、事業環境の変化スピードと不確実性が増していくなかで、検討の土台となるものが過去の慣例や成功体験をベースにしていては成功の芽を摘んでしまうことになりかねない。

 実際、ある企業では、自部門の取り組みを顧客の変化とともに10年スパンで振り返ることで、成功体験や大切にしてきたことを把握し、目先にとらわれずに本来どうありたいかを検討するワークショップを開催している。

 そのうえで、単なる売上増加やコスト削減というレベルに留まらず、新規顧客開拓や既存顧客のリピート率、顧客体験としてのNPS(Net Promoter Score:顧客ロイヤルティを計測する指標)の向上といったレベルまで目標をブレイクダウンできるとよい。

 ここでの目標は仮の設定でも構わない。むしろ、目標がアンカーの役割を果たすことで、その達成に向けた対話の入口になり、実際のアクションにつながることが重要だからだ。その観点から、有用な目標設定の仕方がOKR(Objective and Key Results)である(図1)。

図1:OKR(Objective and Key Results)の例

 OKRでは、目標(Objective)を定性的に1つ定め、Key Resultsを定量的に2〜5つ定義し、その進捗度合いを計測する。Key Resultsはチームや社員が主体的に設定し、目標へのコミットメントをより一層高める。到達できそうなレベルより、やや高めにストレッチしたゴール設定を推奨し、達成率が60〜70%程度でも成功とみなすのが特徴だ。

 ある企業では、新事業開発のプロジェクト目標をOKR方式でプロジェクト全体とチームごとに設定・共有することで、より創意工夫を促しつつ活動のスピードを高め、定期的に見直している。