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Discover:真に取り組むべき領域の発見のための実践ポイント【第6回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2021年1月21日

第5回では、IBM Garageのコンポーネントの1つである「Discover」において、企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるに当たり真に取り組むべき領域を特定するうえで必要な3つのアクティビティを紹介した。今回は、各アクティビティにおける実践ポイントを詳述していく。

 第5回の最後に、架空のケースに基づいて選択式のミニ演習を出題した。いずれの選択肢も必ずしも間違いというわけではない。だが、取り組むべき領域という観点では各選択肢の後半の要素がより重要になる。

 Discoverにおけるアクティビティは、(1)ビジネス領域の特定、(2)ビジネス目標の定義、(3)推進組織の役割定義の3つだった。それぞれの実践ポイントを解説していく。

アクティビティ1:ビジネス領域を特定する

 取り組むべきビジネス領域を検討しようとしても、「どこから、どのように手をつければよいのか分からない」という声を聞く。また、自社の事業領域と関係が薄く、これまでの資産を活かせるかどうかも不明なまま、場当たり的に取り組みを開始し活動が頓挫してしまうケースも存在する。

 第5回では、様々なアプローチが挙げられるものの、有力候補が見えてきた時点でフィールドワークを実施することが重要だと述べた。ミニ演習に挙げたような既存業務に関わる調査であれば、その内容が記載された資料は参考程度に留め、現場での行動や、その背後にある意識や慣習に着目する現場観察やインタビューにより、ビジネス領域を発見する気づきが得られる。

 「百聞は一見にしかず」ではあるが、何を重視して取り組むのが、具体化するうえで有効だろうか。

アクションa :現場の困り事を集めることを中心に取り組む
アクションb :特定の仮説を予め設定し、その通りかどうか検証する
アクションc :自分たちにとって想定外の事象を見つけることを重視する

 いずれもどの段階にあるかによってはあり得る選択肢ではあるが、取り組むべき領域を具体化する上では、アクションcが役に立つ。

実践ポイント:フィールドワークで現場の理解を深める

 フィールドワークとは、具体的には現場を理解するためにインタビューを実施したり実際の現場を観察したりすることである。インタビューでは、サービスの提供者と受給者、それぞれの立場から気持ちや考えを理解することに努める。

 例えば、農業の現場であれば、農業従事者(提供者)と卸業者(受給者)になる。実践ポイントとしては、困り事だけでなく、過去の成功体験や大切にしていることを聞くと効果的だ。

 現場を観察する際は、特定の仮説に固執せず、むしろ想定外の事象を観察・発見することで、重要な気づきがもたらされることが多い。特定の仮説の検証を目的にすると、そこばかりにフォーカスしてしまい得られるものが少なくなるからだ。

 人々の表情や実際の行動などを目にしながら、現場の匂い、物理的な明るさといった環境そのもの、雰囲気などの空気感を体感したり、現場での作業を実際に体験したりすることで、より深い洞察を得られる(写真1)。

写真1:農業現場でのフィールドワークの様子

 例えば、農業のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)をビジネス領域として着目したある企業は、実際に農業法人を訪れ、作業を体験することで身体的な負荷を身をもって感じたり、経営者や現場の農業従事者のやりがいや大切にしていることを聞くことで現場への理解を深めたりしている。