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- 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方
Discover:真に取り組むべき領域の発見のための実践ポイント【第6回】
アクティビティ3:組織の役割を定義する
第5回、組織の役割として、(1)現場で推進を担うSquad、(2)推進チームの連続的な試行錯誤を支援するイノベーションマネジメントとしてのGarage Board、(3)投資判断を担うInvestment Boardの3つを挙げた。ここでは、日本企業に欠けていることが少なくない、イノベーションマネジメントとしてのGarage Boardの役割に、よりフォーカスして触れたい。
よくある失敗のケースとして、「新規事業開発の号令をかけたものの現場の推進チーム任せになってしまった」「デジタル部門を作ったまではよかったが、そのあとは他部門を巻き込めず頓挫してしまった」などがある。理由としては、イノベーションマネジメント機能そのものが不在、もしくは十分に機能していないということが多い。
その背景には、価値創出のための試行錯誤の支援というよりも、当初計画達成を重視し、そのための分業や最適化をしてしまうことが挙げられる。そもそもイノベーションマネジメントを遂行するには、どのような体制を作るのがよいのだろうか。
アクションa :担当役員、事務局で構成する
アクションb :プロジェクトに関連する役員、事務局、推進チームリーダーで構成する
アクションc :担当役員、事務局、外部の専門家で構成する
IBM Garageではアクションbを重視する。具体的にみていこう。
実践ポイント:早期に関係者を巻き込み、現場と迅速につながる仕掛けをつくる
第5回、イノベーションマネジメントチームは、全体の計画や投資対効果を検討し、自社が得意でない領域や欠けている点は、外部パートナーとの連携や採用を考えたり、活動推進の中で見えてきた制約や障害を取り除いたりする役割を果たすことに触れた。また、Garageの取り組み内容を社内に向けて積極的に発信していく必要がある。単なる活動内容に留まらず、組織として目指すより大きなゴールや意義にも触れながら共有を行っていくことも重要だ。
このようにGarageを円滑に推進していくためには、プロジェクトの担当役員や現場のリーダーだけでなく、技術担当や人事担当役員をボードメンバーに加えることも重要だ。そうすることで、現場と直接的かつ迅速につながり、また関連する部門からの支援も得やすくなる。主なイノベーションマネジメントチーム(Garage Board)の役割を図2に示す。
対処が必要な障害としてよくあるのは、現場の推進チームの中で過度な分業が起きてしまい、異なる役割の間で仕事がスムーズに進まないケースだ。
そのような場合、イノベーションマネジメントチームは、専門性だけなく幅広い領域の知識や経験を持つT字型人材を各チームに配置する工夫や、現場のメンバーが自分の主たる役割に閉じることなく越境して共に検討するという意識づけを、推進チームに対し予め実施する必要がある。
加えて、1つのチーム内だけでなく、複数のチーム間で、いわゆる“縦割型”になってしまうケースも要注意だ。各チームが独立して進めた結果、連携がなされず単発の活動になってしまい、全体としての推進力を失ってしまうこともままある。チーム間の連携が上手くいくようにイノベーションマネジメントチームが舵を取る必要がある。
現場の取り組みは状況に合わせて柔軟に変化していく。結果、自社のミッションや戦略と大きくかけ離れてしまい、自社としてやるべきでないものに行き着いてしまうケースも起こり得る。自社戦略とプロジェクトとの関係性を担保する意味でのガバナンスを効かせることも重要になる。
今回はDiscoverにおける取り組むべき領域を特定するための実践ポイントを紹介した。この段階では、多くの時間をかけて変更の効かないビジネス領域や目標を練るのではなく、柔軟性を持ってアクションを起こしていくことが重要であり、イノベーションマネジメントチームが果たす役割が大きい。
次回は、IBM Garageコンポーネントの「Envision」について紹介する。Discoverで特定した取り組むべき領域に対し、IBMデザイン思考を用いながらペルソナに共感することで課題を発見し、解決策を導き出していく段階である。
木村 幸太(きむら・こうた)
日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業本部 IBM Garage事業部 部長。IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に入社後、さまざまな業種の企業への営業やCRM、マーケティング戦略の策定・実行支援、BPR、システム化構想から導入など経験する。2018年1月にスタートアップを支援するIBM BlueHub、同年10月よりIBM GarageのLeadに着任。近年は、イノベーションやデジタル変革をテーマに、デジタル戦略やアジャイル案件を数多く手がけている。
黒木 昭博(くろき・あきひろ)
日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 マネージングコンサルタント。事業変革の構想立案や、それに伴うデジタル活用、新サービスの企画コンサルティングを手掛ける。企業と顧客が一体になって価値を生み出す共創を促進する手法の研究開発や実践にも取り組む。著書に『0から1をつくる まだないビジネスモデルの描き方』(日経BP社、共著)、『徹底図解 IoTビジネスがよくわかる本』(SBクリエイティブ、共著)がある。修士(経営学)。
中岡 泰助(なかおか・たいすけ)
日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 コンサルタント。フランス プロヴァンス大学院 文化人類学修士課程修了後、日系メーカーの技術営業職を経てIBMに入社し、米国・欧州・日本における新規事業企画、業務改革等のコンサルティングに従事。アフリカのガーナやマリでの調査経験を有し、ブータンの開発政策に関する著作『Le développement basé sur le Bonheur National Brut』がある。