• Column
  • スマートシティのいろは

既存の都市を作り変える「ブラウンフィールド型」スマートシティ【第2回】

藤井 篤之、村井 遊(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2021年10月27日

日本各地で成功事例が増えている

 日本国内にも、ブラウンフィールド型スマートシティの成功事例は多数ある。

横浜市:国内スマートシティの先駆けとして実証目標を達成

 国内スマートシティの先駆けとも言えるのが、横浜市が2010年から取り組んでいる「横浜スマートシティプロジェクト」だ。経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム実証地域」に認定されたことから始動した。現在も、エネルギー・環境領域を中心にスマートシティの実現に向けた取り組みが継続されている。

 同プロジェクトでは、エネルギーマネジメントの仕組みとして、家庭用のHEMS(Home Energy Management System)、オフィスビルなどのためのBEMS(Building and Energy Management System)、再生可能エネルギーを含むVPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)、EVなどの活用を推進した。

 プロジェクトの実施期間だった2014年度までに目標を達成するという成果を上げた。2015年度からは、新たな公民連携組織を立ち上げ、実証プロジェクトで得た技術やノウハウを生かしながら、防災性や環境性、経済性に優れたエネルギー循環都市を目指した活動が進められている。

会津若松市:データドリブンな都市を目指す

 中規模都市における代表的な事例が、福島県会津若松市の「スマートシティ会津若松」である。少子高齢化に伴う人口減少、東日本大震災による被害という課題に直面していた会津若松市は2011年、スマートシティ会津若松の計画を同市に拠点を設立したアクセンチュア、コンピューター理工学の専門大学である公立会津大学と共同でまとめ、2013年から取り組んでいる。

 スマートシティ会津若松の最大の特長は、エネルギー領域だけでなく、健康・福祉、教育、防災、交通など住民の生活を取り巻く様々な分野を横断的に包含し、デジタル技術やデータを積極的に活用することで、「将来に向けて持続力と回復力のある力強い地域社会と、安心して快適に暮らすことのできる街づくり」を進めていることだ。

 具体的には、2015年に開設した市民向けポータルサイト「会津若松+(プラス)」を通して、地域IDを取得した市民に対し、よりパーソナライズされた地域情報・行政情報を提供している。ほかにも、スマートフォンでの母子健康手帳の情報閲覧や、AI(人工知能)技術による簡易な問い合わせに回答するチャットサービス、在宅医療を可能にするオンライン診療サービスを提供するなど、幅広く生活の利便性向上に取り組んでいる。

 スマートシティ会津若松が目指すのは、データを分析・活用することで現状や課題を可視化し、エビデンスに基づいて住民が意思決定を下す“データドリブンな”スマートシティである。そのために、住民の同意を得てからデータを利用する「オプトイン」と呼ばれる方式を取り入れている。結果、スマートシティに対する住民の認知度は95%を超えている。

 そのためのデジタル基盤となる「都市OS」を構築してもいる。今後は都市OSを活用し、健康・福祉や教育といった分野横断の行政サービスを充実させていく方針だ。

 具体的には、個々人の位置情報を緊急時に活用し災害時に適切な避難経路を示す「マイハザード」や、まち全体を1つの医療機関とみなしデジタルでつなぐ「バーチャルホスピタル」の構想などを進めている。バーチャルホスピタルでは、日々の健康管理から医療機関の予約、オンライン/オフラインで摩擦や軋轢がないフリクションレスな診療を提供する。

成功事例の共通点は「住民合意」と「住民主体」

 ほかにも、群馬県前橋市や、兵庫県加古川市、北海道更別村などが、ブラウンフィールド型スマートシティの実現に向けて、ユニークな取り組みを進めている。

 例えば前橋市は、マイナンバーカードとスマホのSIMカード、顔認証を組み合わせて本人を認証する住民ID「まえばしID」を導入し、様々なサービスの創出を目指す。加古川市は、公式スマホアプリ「かこがわアプリ」が持つ見守りタグ検知機能と、郵便車両に搭載したIoT機器を活用し、よりきめ細かな見守りサービスを導入している。

 「日本一裕福な村」といわれる更別村では、住民が「100歳になってもワクワク働けてしまう奇跡の農村」を目指し、AIやロボットなど先端技術を取り入れたサービスの開発・提供に取り組んでいる。

 ブラウンフィールド型であっても、取り組み内容は、それぞれの都市によって異なっている。だが成功事例に共通しているのは、住民の合意の下、住民主体で事業を推進している点である。このことは、これから本格化するスーパーシティ構想に向けた実証においても、最も重要な鍵になるだろう。

 次回は、新規にスマートシティを開発する「グリーンフィールド型」について解説する。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

村井 遊(むらい・ゆう)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 コンサルタント。東京大学大学院 工学系研究科 システム創生学専攻 修了後、2011年総務省に入省。通信関連業務に従事した後、2014年に会津若松市に出向し同市のスマートシティプロジェクト「スマートシティ会津若松」の立ち上げに関わる。2019年アクセンチュアに入社し、スマートシティ会津若松に民間の立場から継続的に関与。SIP(内閣府)のリファレンスアーキテクチャ策定や、会津若松市のスーパーシティ提案書の全体取りまとめなどを実施。