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既存の都市を作り変える「ブラウンフィールド型」スマートシティ【第2回】

藤井 篤之、村井 遊(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2021年10月27日

スマートシティ/スーパーシティを実現するためのアプローチには大きく2つのタイプがある。「ブラウンフィールド型」と「グリーンフィールド型」だ。前者では既存の都市をベースにスマート化図り、後者では住民がいない全く新しい場所にゼロからまちづくりを始める。今回は、ブラウンフィールド型スマートシティについて、国内外の事例を含め解説する。

 前回では、スマートシティと日本政府が国を挙げて推進するスーパーシティの関係性について解説した。2020年9月に施行された「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」を受け、2021年にもいくつかの地方公共団体がスーパーシティに選定される。

 候補として名乗りを上げた都市のスーパーシティ計画は、大きく2つのパターンに分けられる。「ブラウンフィールド型」と「グリーンフィールド型」だ。ブラウンフィールド型は、住民が生活している既存の都市をスマート化するパターンである。グリーンフィールド型は、新しい都市を設計・建設したり再開発したりしてスマートシティを創り出す。今回は、スーパーシティ候補の多くを占めるブラウンフィールド型スマートシティについて解説する。

都市のスマート化はブラウンフィールド型から始まった

 ブラウンフィールド型スマートシティは、住民が生活している既存の都市を対象に、住民の合意を形成しながら、都市や街区が抱える課題を、デジタル技術や新たなルール・制度を適用して解決していく手法である。既存の都市を上空から俯瞰した様子が褐色に見えることから“ブラウンフィールド”と呼ばれるようになった。

 2008年頃から世界各地で始まったスマートシティの取り組みは、そのほとんどがブラウンフィールド型だった。前回説明したように、スマートシティはもともと、都市のエネルギー問題をデジタル技術で解決する取り組みから始まった。その後、ゴミ処理など環境全般に領域が拡大し、さらに既存都市が抱えるあらゆる課題を解決するスマートな街づくりへと発展してきた。

 ブラウンフィールド型スマートシティは世界各地に存在している、デンマークのコペンハーゲン、米国のニューヨークやサンフランシスコ、コロンバス、カナダのトロント、アラブ首長国連邦のドバイ、シンガポールなどだ。これらのうち、海外の代表例とされるのが、オランダの首都アムステルダムの取り組みである。

アムステルダム:都市プロモーションで“市民の誇り”を形成

 アムステルダムのスマートシティ構想は、同市が2006年にオランダを中心にエネルギー事業を展開するAllianderと共同でエネルギー問題解決の検討を開始したことに端を発している。

 その後、EU(欧州連合)が2008年に合意した「気候変動・エネルギーに関する政策パッケージ」の温室効果ガス削減目標の達成に貢献しようと2009年、EUの他都市に先駆けて「アムステルダム スマートシティ プログラム」を策定し、本格的な取り組みを開始した。

 エネルギー問題の解決を目指すところから始まったこともあり、当初はスマートメーターの導入による消費電力の可視化や、スマートグリッドの整備による電力需給の最適化、エネルギー制御が可能なスマートビルへの転換といった取り組みが進められた。そこからEV(電気自動車)の普及を目指した充電スポットの設置や、ゴミ収集や駐車場など公共スペースにおける環境問題全般の解決へと領域を拡大した。

 住民への認知度向上や意識喚起を目的に「I amsterdam」というキャッチコピーを掲げた都市プロモーションを展開しシビックプライド(都市に対する市民の誇り)を形成。同時に、都市情報をオープンデータとしてインフラや環境負荷の状況を可視化する取り組みへと発展させた。

 2016年からは「Sharing City Amsterdam」を掲げ、シェアリングエコノミーの取り組みに着手。「Airbnb」や「Uber」といったグローバル規模でビジネス展開されるシェアリングサービスに加え、コミュニティに根差したシェアリングサービスを提供するスタートアップの育成にも力を入れている。同市内に張り巡らされた水路に停泊するボートをシェアリングするという独自のサービスも生まれている。

シカゴ:市内に設置したIoTセンサーのデータをオープン化

 北米の事例には、米国第3の都市であるシカゴのスマートシティプロジェクト「Array of Things」がある。長引く経済停滞を打開するために2013年、「シカゴテックプラン」を発表。同市に集積するIT関連企業と連携して最先端デジタル技術の活用による都市のスマート化を目指している。

 シカゴの取り組みで特徴的なのが、データ活用サービスを展開していることだ。市内各所の街灯などにIoT(Internet of Things:モノのインターネット)センサーを設置し、様々な環境データをリアルタイムに取得・収集。その環境データを「シカゴ スマートデータプラットフォーム」に蓄積している。

 同プロットフォーム上のデータは、オープンデータとして民間企業や住民に公開し、ビジネスやサービスへの活用を促進している。地下に埋設された電気・ガス・上下水道などのライフラインをマッピングし、夜間工事の適切な実施や大雨時の都市洪水・浸水検知などに活用してもいる。