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未開発の地にゼロからつくる「グリーンフィールド型」スマートシティ【第3回】
日本では都市近郊の工場跡地の再開発が先行
神奈川県藤沢市:パナソニックの関連工場跡地を再開発
日本におけるグリーンフィールド型スマートシティの代表的事例の1つが、神奈川県藤沢市での「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン(FSST)」だ。旧松下電器産業(現パナソニック)の関連工場跡地を再開発するプロジェクトとして2010年にスタートし、2014年に街開きが行われた。最終的には1000戸の住宅と、商業施設や福祉施設、医療機関、教育機関、物流施設を含むスマートタウンを目指す。
プロジェクトは、地権者であるパナソニックが「地域から地球に拡がる環境行動都市」の先導的モデルプロジェクトとして主導。Fujisawa SSTの趣旨に賛同するパートナー企業とコンソーシアムを結成し、藤沢市とも協力しながら街づくりを進めている。パートナー企業には、エネルギーやセキュリティ、モビリティ、ウェルネスといった領域に強みを持つ企業が名を連ねている。
Fujisawa SSTの特長は、エリアを区分・区画するゾーニングやインフラといった技術起点ではなく、住民の“くらし起点”で街づくりに取り組んでいる点だ。サスティナブルな街を実現するための道しるべとなる「環境(CO2削減、生活用水削減)」「エネルギー(再生可能エネルギー利用率)」「安心・安全(ライフラインの確保)」に関する数値目標を設定しながらも、最終的には住民主体の地域に根差した街づくりを目標にしている。
ちなみにアクセンチュアもFujisawa SSTに参加している。そこでの役割は、スマートタウンの構想策定およびサービスモデルの企画・推進、世界各国のスマートシティ支援実績を活かしたマーケティング支援である。住民向けタウンプラットフォームの導入では、第1回で紹介した福島県会津若松市で構築したデータ連携基盤(都市OS)を横展開している。
千葉県柏市:米空軍通信基地跡地を再開発
10年を超えて街づくりが進められている事例に、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」がある。2005年に開通した、つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅周辺エリアで進む柏の葉スマートシティは、米空軍通信基地跡地を再開発したものだ。
柏の葉スマートシティの起点は、2008年に千葉県と柏市、東京大学と千葉大学の官学共同で発表した「柏の葉国際キャンパスタウン構想」である。2014年に駅前中核街区「ゲートスクエア」が開業し、住宅から商業施設、オフィス、ホテル、ホールまでの都市機能を集積した複合開発型スマートシティとして本格稼動した。
その特徴は(1)環境共生都市、(2)健康長寿都市、(3)新産業創造都市という3つのテーマを掲げ、その実現に向けて産官学連携で取り組んでいることにある。
例えば環境共生都市の実現に向けては、各住戸の家電機器を自動制御する「柏の葉ホームエネルギー管理システム」や、街全体のスマートグリッドである「柏の葉エリアエネルギーマネジメントシステム」が導入されている。データ連携による新たなサービス創出を目指す「柏の葉データプラットフォーム」の整備も進めている。
ほかにも、トヨタ自動車が静岡県裾野市の自社工場跡地で進める「Woven City(ウーブン・シティ)」や、福岡市・九州大学・UR都市機構・福岡地域戦略推進協議会が福岡市東区の九州大学箱崎キャンパス跡地で進める「FUKUOKA Smart EAST」、東急不動産とソフトバンクが港区竹芝エリアで進める「Smart City Takeshiba」などがある。Smart City Takeshibaは、東京都の「都市再生ステップアップ・プロジェクト」の1つである。
周辺の既存のまちづくりを巻き込みことが重要に
このようにグリーンフィールド型スマートシティの良さは、大胆な開発、大胆なデジタル活用が進められることだ。しかし、いかに最先端の取り組みを進めたとしても、グリーンフィールド型の開発実績によって得られた経験・知見を他の地域にも広げていかなければ、国全体をスマート化するという恩恵は享受できない。
とりわけ既存のまちづくり、すなわちブラウンフィールド型スマートシティを巻き込みながらスケールさせていくことが重要になる。FUKUOKA Smart EastやSmart City Takeshibaも実は、新規エリアの開発だけでなく、周辺のブラウンフィールドエリアを含めた取り組みである。
ブラウンフィールドを巻き込んだ街づくりとして注目されているのが、三重県多気町を中心とした6つの町(多気町・大台町・明和町・度会町・大紀町・紀北町)が共同で進める「三重広域連携スーパーシティ構想」だ。
同構想は、グリーンフィールド型で開発が進む滞在型商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」を拠点に、自治体や企業が広域に連携しながら最先端デジタルテクノロジーを活用し、ヘルスケアやモビリティ、エネルギー、観光振興といった社会課題の解決に取り組んでいく。
このグリーンフィールドで得られた知見を6町の既存の街にフィードバックし取り込もうとするのが、広域連携スーパーシティ構想の骨子になる。既存の街をスマート化するブラウンフィールド型の取り組みの重要なパーツの1つとしてグリーンフィールド型のVISONが位置付けられているわけだ。
スーパーシティ構想における同様の提案例に神奈川県鎌倉市の「鎌倉スーパーシティ構想」がある。同市深沢地区の未利用地に新たな街をつくり、その成果を鎌倉地区や大船地区など既存市街地(ブラウンフィールド)にフィードバックする。
ほかにも大阪市が、大阪市此花区の埋立地・夢洲(ゆめしま)で2025年に開催される大阪・関西万博会場周辺エリアを中心としたスーパーシティ構想において、同様の考え方を示している。
全く新しい都市をゼロからつくるグリーンフィールド型は、ブラウンフィールド型に比べ開発しやすいという特長がある。だが、日本全体のスマート化・デジタル化に寄与し、周辺エリアと共生して発展する街づくりのためには、グリーンフィールド型の先進的な取り組みをブラウンフィールド型に適用・活用するためのスキームの構築も必要になるだろう。
これから始まるスーパーシティ構想に向けた実証では、グリーンフィールド型スマートシティの街づくりがどのように進められ、それがブラウンフィールド型スマートシティの発展にどのように貢献するかという面にも注目したい。
藤井 篤之(ふじい・しげゆき)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。
村井 遊(むらい・ゆう)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 コンサルタント。東京大学大学院 工学系研究科 システム創生学専攻 修了後、2011年総務省に入省。通信関連業務に従事した後、2014年に会津若松市に出向し同市のスマートシティプロジェクト「スマートシティ会津若松」の立ち上げに関わる。2019年アクセンチュアに入社し、スマートシティ会津若松に民間の立場から継続的に関与。SIP(内閣府)のリファレンスアーキテクチャ策定や、会津若松市のスーパーシティ提案書の全体取りまとめなどを実施。