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未開発の地にゼロからつくる「グリーンフィールド型」スマートシティ【第3回】

藤井 篤之、村井 遊(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2021年11月10日

前回、スマートシティ/スーパーシティを実現するための大きく2つあるアプローチのうち「ブラウンフィールド型」について解説した。今回は、もう1つのアプローチである「グリーンフィールド型」について事例を交えながら解説する。グリーンフィールド型は、主に山林や埋立地、大規模工場跡地などを開発するスマートシティだ。

 国が進めるスーパーシティ構想や事業会社などによるスマートシティ計画のなかには、住民がいない全く新しい場所にゼロからまちづくりを始める「グリーンフィールド型」と呼ばれるアプローチが含まれている。

最大のメリットは「開発のしやすさ」

 グリーンフィールド型とは、整備されていない未開発の土地に建物や道路、ライフラインなど様々なインフラを整備することでスマートシティを実現する手法である。未開拓の山林や草地が広がる様子から「グリーンフィールド」と呼ばれるようになった。緑地ではないが、港湾の新規埋立地や大規模工場跡地を開発するスマートシティもグリーンフィールド型に含まれる。

 グリーンフィールド型の最大のメリットは推進の容易さにある。周辺住民などを除けば、地権者のみで多くの事項について決定でき、自治体や民間デベロッパーの主導によりゼロからの開発が進められる。

 こうしたニュータウン建設は古くから実施されてきた。だが従来のニュータウンは建物や道路を作りインフラを整備することだった。グリーンフィールド型スマートシティでは、それらに加え、最先端のデジタルテクノロジーをフル活用しながら街を作りあげることが特長になる。

 例えば、再生可能エネルギーの分散電源によるマイクログリッド(小規模電力系統)サービスや、自動運転車やドローンを活用したモビリティサービス(MaaS:Mobility as a Service)、5G(第5世代移動通信システム)回線によるリアルタイムでのオンライン診療やAI(人工知能)ドクターといったヘルスケアサービスなど、未来都市を具現化するサービスの提供が実装または計画される。

 これらサービスはブラウンフィールド型でも部分的には提供されている。しかし、グリーンフィールド型では開発前に居住している住民がおらず、新たに建設されるスマートシティの理念や目指す方向性、提供されるサービス内容に賛同した住民が集まってくる。そのため、データの提供や活用への同意・承諾を事前に得る「オプトイン」において、100%の住民から得たうえでの大胆なデジタル化計画も可能になる。

 街区内で事業展開する企業にしても、デジタルテクノロジーによるソリューションや新しいビジネスの創出を共に考え、スマートシティの発展に貢献してくる企業だけを選定することもできる。

 こうした特徴を持つグリーンフィールド型スマートシティとしては、どのような事例があるのだろうか。著名なケースを紹介しよう。

GoogleやAlibabaなど巨大テック企業が参入

カナダ・トロント:データの取り扱いを巡り頓挫

 海外におけるグリーンフィールド型スマートシティの事例として、良い面でも悪い面でも有名なのが、カナダ・トロントのウォーターフロント再開発計画「Sidewalk Toronto」だ。

 Sidewalk Torontoは、米Googleの親会社である米Alphabet傘下のSidewalk Labsが街づくり計画の策定を受託したスマートシティ構想であり、その新たな街づくりに向けたアプローチの先進性が高く評価されていた。具体的には、建物・道路・施設の各所にセンサーを設置してデータを収集し、それをオープンデータ化することで企業が新たなイノベーションやサービスの創出を目指すというものだ。

 ところが、データの取り扱いについて住民の理解・賛同を十分に得られなかった。そこに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡散し、コロナ禍での街としての採算性の問題が露呈したことも相まって、残念ながら計画は頓挫してしまった。街づくりのアプローチとしては先進的だっただけに、住民中心で推進することの重要性を改めて認識させた学びの多い事例の1つだといえる。

中国・河北省雄安新区:大手テクノロジー企業が進出

 中国政府は国家戦略としてスマートシティ建設を進めている。中国河北省雄安新区で進められているスマートシティも、その1つで、果樹園が広がるエリアを新たに開拓した。

 ここには、中国の大手テクノロジー企業であるアリババ、バイドゥ、テンセントなどが進出している。政府と協力しながら、自動運転バスや自動走行清掃車、無人配送車、ICタグとキャッシュレス決済により支払いを自動化した無人コンビニエンスストアなど、様々な最新サービスの実証実験が実施されている。