• Column
  • スマートシティのいろは

スマートシティが求めるデータ連携基盤の進化と都市OSへの発展【第8回】

X-Road、FIWAREからDCPまで

藤井 篤之、谷本 哲郎(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年3月2日

日本のデータ連携は市民参加のスマートシティを実現する

 X-RoadとFIWAREを例に欧州におけるデータ連携基盤と、その活用例を紹介した。これらに対し、日本が目指すべき市民を中心としたスマートシティを実現するための都市OSは、市民とのインタラクティブ性やオプトイン(事前承諾)を前提とした、市民参加を実現する機能が具備されるべきだと考える。

 アクセンチュアでは、福島県会津若松市でのスマートシティプロジェクトに取り組むなかで、日本初の都市OSとなる「DCP(デジタルコミュニケーションプラットフォーム)」を開発した。

 会津若松のプロジェクトでは、会津若松市と会津大学、アクセンチュアの産官学が連携し、「市民、移住者、事業者、観光者と地域の接点強化」と「デジタルデータに基づくマーケティング改善」の実現を目指している。

 その過程でDCPは、利用者の属性に応じた情報コンテンツやサービスを動的に提供したり、利用者に関するデジタルデータを集積・分析したりを可能にする共通プラットフォームとして開発された。

 DCPを使えば、自治体や地域の各サービスやデータを連携し、市民に各サービスをワンストップで提供する仕組みを構築できる。基盤やサービス機能は、必要に応じてアジャイル型で随時、開発・拡張が可能だ。

 外部プラットフォームとのサービス/データ連携もAPIを介して実現できる。ユーザーのアクセス情報を含むあらゆるデータをDCPで連携することで、利用者のビッグデータとして新たなサービスの創出などへの活用が可能になる。

 会津若松市は2015年にDCPを導入し、行政のオープンデータやパーソナルデータの基盤、あるいは民間のクラウドサービスと連携した共通プラットフォームとして活用し、様々なサービスを実現させている。市民向けポータルサイト「会津若松+(プラス)」や、観光客向けサイト「VISI+ AIZU(ビジットアイヅ)」、母子健康情報サービス、新型コロナワクチン接種記録確認サービス、除雪車ナビなどだ。

 なおDCPは、データ連携基盤にFIWAREイニシアチブの一環で開発された「Orion」を搭載している。このOrionは、日本のデジタル庁が各地の都市OSをつなぐためのデータ連携基盤の標準として採用した。これによりDCPは、異なる都市OSを利用するスマートシティと接続でき、日本各地でのデータやサービスの連携を可能にする。

 DCPは現在、会津若松市のほか、宮崎県都農町、沖縄県浦添市、千葉県市原市など6自治体が導入している。2022年度末には、さらに導入数が増える予定である。

都市マネジメントの要素も導入のポイントに

 今後、都市OSの標準データ連携基盤が整備され、都市OS同士の連携も活発になっていく。だが重要なのは、都市マネジメントシステムの要素も含めて導入を推進することだ。

 都市マネジメントシステムとは、スマートシティのビジネス的要素を運用するための仕組みである。スマートシティを実現していくには、単に都市OSを導入するだけでは不十分だ。都市OSをどう使っていくのかという戦略を策定する意思決定の仕組みや、データの連携・流通のルール/ガバナンスを管理するマネジメント組織が不可欠である。

 特に防災や安全、まちづくり、医療といった官民の協調が求められる領域では、全体最適の視点が欠かせない。そうした機能を担うのが都市マネジメントの役割だ。

 都市マネジメントシステムと都市OSを一対として整備するとともに、スマートシティが全国的に広まっていく中長期的な未来を見据えながら、都市OSの導入、ひいてはスマートシティの構築を進めることが望ましい。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

谷本 哲郎(たにもと・てつろう)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 シニアマネジャー。システムベンダーでの営業およびビジネスディベロップメントの約10年のキャリアを経て、2011年アクセンチュア入社。公共サービス領域(官公庁・自治体・公益団体など)の中でも、主にデジタル・スマートシティ関連領域のプロジェクトに参画。自治体、行政機関、地域大学、各関連民間企業と連携し、会津若松市をはじめとしてデータ活用したスマートシティ関連(観光、エネルギー、医療、地域ポータル等)の各プロジェクトにおけるデジタル戦略策定、システム構築・とりまとめ、事業推進支援に従事している。