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スマートシティが求めるデータ連携基盤の進化と都市OSへの発展【第8回】
X-Road、FIWAREからDCPまで
前回は、スマートシティを支えるリファレンスアーキテクチャと共通データ連携基盤としての「都市オペレーティングシステム(OS)」について解説した。今回は、欧州での市民サービスにおけるデータ連携基盤と日本発の都市OSを紹介するとともに、スマートシティへ導入する際のポイントを述べる。
世界では、市民サービスにおけるデータ連携の取り組みが進んでいる。特に欧州では、当地で発展してきた個人IDによるサービス間のデータ連携や、センサーデータなどの利用を目的としたデータ連携が進み、それらを踏まえたデータ連携基盤が構築されている。
エストニア発のデータ連携基盤「X-Road」
データ連携を実現している例として有名なのが、バルト三国の一角を占めデジタル立国を目指すエストニアだ。デジタルガバメントの代表例としても良く紹介されている。
エストニア国民は現在、政府が用意するポータルサイトに国民ID「eID」を使ってログインすれば、納税や選挙、教育、健康保険、警察業務などのオンラインサービスが利用できる。これを可能にしているのが、電子政府サービスを支えるバックボーンとして2001年に運用が開始された共通データ連携基盤「X-Road」である。
同国では当初、各バンキングサービスとeIDの連携によるサービスを実現していた。だがX-Road導入以前は、政府機関や企業が独自のデータベースで国民情報を管理していたために、各機関・企業それぞれにeIDおよび個人情報を提供する必要があった。導入後は、段階的に各サービス間のデータ流通を拡張し、警察、学校、病院などが管理するデータベースを含め、横断的に行き来できる利便性の高いサービスを迅速に提供できるようになった。
X-Roadは、eIDをベースに、利用者自身がサービス単位でパーソナルデータの流通をセルフコントロールする「サービスアプローチ」で発展し、行政サービスだけでなく様々な民間サービスともデータ連携が図られている。
エストニア政府はX-Roadを積極的に輸出する戦略を採っている。これまでに、フィンランドやアイスランド、アゼルバイジャン、キプロスなどに導入されている。
欧州連合が開発を進めたOSSの「FIWARE」
一方EU(欧州連合)では、業種・業界の垣根を超えた横断的なデータ流通やサービス連携を実現するための基盤ソフトウェアの開発が進められてきた。スマートシティ領域における競争力強化と、社会・公共領域のアプリケーション開発の支援が目的だ。
その発展形がOSS(オープンソースソフトウェア)の「FIWARE」である。その開発と管理は2016年以降、FIWAREの普及促進を図る非営利団体のFIWARE Foundationが管理するオープンソースコミュニティが担っている。ちなみにFIWAREは「Future Internet Software」の略だとされる。
FIWAREの実態は、次世代インターネット技術を使ったアプリケーションの開発・実装を可能にするソフトウェアモジュールの集合体だ。各モジュールを組み合わせることでデータの仲介や分散管理を実現し、スマートシティにおけるデータ連携基盤として機能する。ライセンスフリーで利用できる。
各モジュールは「NGSI(Next Generation Service Interface)」というオープンAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を備え、このAPIを使って連携を図る。NGSIの仕様は標準化団体OMA(Open Mobile Alliance)が策定している。
データ連携基盤としてのFIWAREは、主に都市データの可視化により都市の課題を明らかにし、データに基づいた施策を打つために活用されている。代表的な事例の1つに、スペインのサンタンデール市の取り組みがある。
同市では、市内各所に約1万2000個のセンサーを設置し、そのセンサーデータをFIWAREのデータ活用プラットフォームに集約することで、分野横断のデータ活用を実現。様々な社会・公共領域のアプリケーションに活用している。
例えばゴミ回収事業への活用では、ゴミ箱の収容量をセンサーで計測し回収ルートの効率を高めた結果、15%ものコスト削減効果が得られたという。従来は、清掃車が決まった日時に決まったルートを巡回しゴミを回収していた。