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デジタル時代の地域教育モデルの現状と未来を考える【第16回】

データに基づくエビデンスベースの教育環境の実現を

藤井 篤之、工藤 祐太(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年8月10日

集約したデータに基づく自動化・改善が可能に

 子ども情報プラットフォームが構築されれば、どのようなビジネスの創出が考えられるのだろうか。最終的な目標は、子ども情報プラットフォームに集約したデータを有効活用し、子どもの個性に寄り添った教育の実現である。そのためには、教職員や学習者の負荷を抑えながら、既存情報をデータ化し、そのデータを蓄積していくためのサスティナブルな運用モデルを作る必要がある(図3)。

図3:サステナブルなビジネスモデルで教職員や学習者の負荷を抑える

 具体的には、(1)学習者データベース、(2)学習者(保護者)課金型の教材購入/サービス利用モデル、(3)コンテンツ提供者との連携プラットフォーム(コンテンツサービスおよび遠隔授業)の3つが検討項目に挙げられる。これらをトータルに整備していくことが、新たなサービスの創出に寄与する持続可能な仕組みを実現する。

 実現可能性のある、さまざまな新サービスの1例に「パーソナルホームページ」がある。登下校や教室の入室をセンサーで感知した出欠情報や、摂取カロリーやインフルエンザ罹患の予兆といった生活情報などを、デジタルデバイスを通じて収集。それらデータをAI(人工知能)技術で統合・分析することで、子どもにとって最適な学びや、保護者にとって最適なフォロー方法を促す。

 学習者の学習データを収集・格納するデータベースを、民間事業者の新たな付加価値サービスとして進化させるというアイデアもある。民間事業者のサービスだけでなく次世代型校務支援システムとの連携ハブになる仕組みでもある。

 これらが実現できれば、授業や成績に関する情報提供はもとより、生徒個人の興味や習熟度に応じた学習プランを提示できる。他にも、保護者間のコミュニケーション、eラーニングを活用したPBL(プロジェクトベースラーニング:課題解決型学習)や反転教育の実現など、次世代の校務支援システムへの応用が期待できる。

 学習者は効果的な学習スタイルを身につけられ、保護者は子どもの能力を伸ばす方法がわかるようになる。学校側も教職員の管理業務負荷を軽減して、効果的な教育カリキュラムの作成に注力できる。校長や教育委員会などにとっても、学校運営の意思決定や新たな教育施策の計画立案に役立てられる。

 学校教育の現場に役立つのが、蓄積したデータを起点に学校業務を改善するBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)サービスだ。学校や教育委員会の業務効率化はもとより、教職員の人材育成プランや評価、組織編成なども効率的に改善できる。エビデンスベースの現場運営サービスが登場してくることも考えられ、教職員の働き方改革に貢献するといった効果も期待できる。

 このようなデータ分析の活用を業務プロセスや施策展開に落とし込むためには、戦略にひもづくKPI(重要業績評価指標)の設定、それに対応するデータの定義や収集・加工、データを分析する人材育成も欠かせない。

 テクノロジーの活用をさらに進めれば、地域教育モデルの理想像が見えてくる。まずは既存の法令や判断基準をベースに、さまざまな自動化を進める。次に統計的手法によりビッグデータを分析して、将来予測と最適な意思決定を実現する。その先に機械学習や自然言語処理を活用した学習システムを実現する。より高度なアナリティクス技術の活用を進めることが、デジタル時代にふさわしい地域教育モデルの確立につながると確信している。

子ども・保護者など利用者向けサービスからの推進が大切

 しかしながら現状、会津若松以外の地域の多くは、ITインフラやシステムを構築するものの、ネットワークの切り分けや端末の利用制限、コンテンツ不足などからデジタル利用が活性化せず、デジタルリテラシーが高い教職員の属人的利用にとどまっている。保護者や地域など学校外との連携も生まれていない。

 会津若松スマートシティでは、現場のデジタルリテラシーを高めたうえで、校務データや学習データなどを連携するプラットフォームを構築し、データ利活用のための環境整備に取り組んでいる。子どもや保護者向けサービスからデジタル化を推進し、学校現場に負担が少ない形でサービスを拡充しながら、基幹業務の情報化へと進めているのが大きな相違点である。

 地方分散の実現や、スマートシティの取り組みを持続的に発展させていく原動力は、人材育成であり教育であることは間違いない。今後も学校現場や自治体と連携しつつ、市民参加や他自治体とのコラボレーションも念頭においた次世代型教育モデルの実現を目指していく。試行錯誤を繰り返しながら、日本の将来を担う人材育成に貢献していきたい。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

工藤 祐太(くどう・ゆうた)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ビジネスコンサルティンググループ プリンシパル。2015年アクセンチュア入社。国や自治体のスマートシティ関連案件を中心に調査・コンサルティング業務に従事。主に、スマートシティをはじめとする地域経済活性化、地域における教育ICT活用の活性化、農林水産物を中心とした流通DX、地域の観光DX領域などを軸に活動を展開してきた。2019年9月に東京から福島県会津若松市に家族ごと拠点を移し、同市だけでなく長野県茅野市など地方創生に関わるプロジェクトへ多数参画している。