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デジタル時代の地域教育モデルの現状と未来を考える【第16回】

データに基づくエビデンスベースの教育環境の実現を

藤井 篤之、工藤 祐太(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年8月10日

前回、会津若松市での「Flatフラっと学びサポート」プロジェクトを例題に、地域が一体となる“協働型”の教育環境の姿を紹介した。今回は、同じく会津若松市で進む教育の主役である子どもを軸に種々の関係者を結ぶ「子ども情報プラットフォーム(仮)」を取り上げながら、同プラットフォームによって実現される地域教育モデルの将来像などを考えてみる。

 第15回で紹介したように、会津若松スマートシティでは、産官学連携によるデジタル人材の育成や、地元ベンチャーを育成する次世代産業拠点「スマートシティAiCT(アイクト)」の設置など、さまざまな取り組みに注力してきた。

 しかし、高齢化率が32%を超える典型的な少子高齢化地域である会津若松市にあっては、出生率の向上や転出率の低減、Uターン/Iターン率の向上というサイクルを作り出すことが大きな課題になっている。そのためには、前回紹介した地域協働型の教育環境に加え、子育てがしやすい環境を整備しなければならない。

 その解決策として、会津若松スマートシティではこれまでに、母子手帳の電子化による親子サポートサービスの拡充や、学校で配布されるプリント類を電子化する「あいづっこWeb」および専用のスマートフォン用アプリケーション「あいづっこ+(プラス)」を展開してきた。学校からのお知らせが確実に届くとともに、学校と家庭のコミュニケーションの活性化に寄与している。今後は、GIGAスクールで配備されたタブレット端末を活用し、児童生徒の宿題や学習結果の共有など、連携可能な情報を拡大していく計画だ。

 さらに、前回紹介した「Flatフラっと学びサポート」として、教職員以外の地域の民間人材を活用した授業やワークショップを開催したり、地域の主婦や学生が積極的に子育てに参加する仕組みづくりに取り組んだりもしている。

教育から医療まで子どもに関するデータを集約する

 こうした教育・子育て施策を進めるための基盤として想定されているのが、都市OSとの連携を前提に設計を進めている「子ども情報プラットフォーム(仮称)」である(図1)。

図1:都市OSと連携する「子ども情報プラットフォーム(仮称)」を基盤とした教育関連施策

 子ども情報プラットフォームでは、家庭向けには「保護者ポータル」を整備し、子どもに関する情報をまとめて閲覧できるようにする。教育機関向けには、教育関係者(教職員、保育士、塾講師など)に子どものデータを提供することで、子ども個人の志向や個性、家庭環境に合わせた最適な指導を提供できるようにする。

 そのために、学習や生活、健康など子どもに関する個人データは、保育園・幼稚園や小中学校、学童保育や学習塾、病院などの医療機関が持っている。それらの個人データを保護者の賛同のもと取得・集約し連携を図る(図2)。種々の教育サービスを連携・提供するだけでなく、見守りや指導を担当する関係者に対しても、最適なサービスの提供を実現する。

図2:子ども情報プラットフォームは取得・集約を想定するデータ群

 こうした取り組みを進めるうえで無視できないのが「オプトイン」の考え方だ。市民がサービス利用時に自らの意思によりデータの共有を承認する。オプトインだからこそ、あらゆる子どもの行動データに基づき、1人ひとりに合った指導やフォローが可能になるとも言える。

 冒頭に挙げた、あいづっこWebおよび、あいづっこ+でも、オプトインした保護者に対してのみ、児童生徒が所属する学校や学級に合わせた情報を配信している。

 会津若松スマートシティでは、オプトインで集めた、あらゆるデータを収集・分析・統計化することで、直接的な子どものサポートを実現するとともに、各機関で派生するデータを活用した新しい先進サービスの創出を推進する構想を描いている。

 なお、情報流通にあたっては地域ID(現在は「会津若松プラスID」)の本人確認の仕組みと、データ利活用範囲の権限を厳格に設計することで、個人データの連携の実現を目指す。こうした個人データは従来、国や自治体が定める情報管理規則や個人情報保護法などの壁により分断されていた。