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地方でも動き出す「ゼロカーボンシティ」に向けた取り組み【第17回】

藤井 篤之、佐藤 雅望(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年10月13日

「カーボンニュートラル」や「脱炭素」といったキーワードが強調されるなか、CO2(二酸化炭素)をはじめとする温室効果ガスの排出量削減に向けた取り組みが世界中で加速している。スマートシティには、2008年頃からの段階的な広がりの当初から、デジタル技術を使って都市のエネルギー利用の効率化や低炭素化を図るなど環境志向の側面を持っている。環境意識が改めて高まってきたことで、スマートシティにおけるカーボンニュートラルへの取り組みも注目を集めている。

 世界各国でカーボンニュートラルへの取り組みが加速している。気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」が2020年に本格的な運用を開始したことが背景にある。

 日本でも2020年10月の臨時国会で、当時の菅義偉首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言。CO2(二酸化炭素)をはじめ、一酸化二窒素(N2O)やメタン、フロンなどの温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出量を2050年までに“全体としてゼロ”にし、脱炭素社会の実現を目指すことを表明した。

 “全体としてゼロ”とは、GHGの排出と同等以上の量を吸収または除去するという意味である。CO2を吸収する植林の推進や、大気中に存在あるいは発電時に発生したCO2を回収・貯留する技術の確立などにより、“差し引きゼロ”の達成を目標にする。

 カーボンニュートラルの実現は、決して容易ではない。もちろん、上述したパリ協定や国際連合(国連)の「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択された2015年以降、産業界を中心にカーボンニュートラルへの取り組みは進みつつある。だが実際には、2030年度のGHG排出目標が2013年度比でマイナス46%であるのに対し、環境省と国立環境研究所がまとめた2020年度のGHG排出量は2013年度比マイナス18.4%と、その進捗は芳しくないのが実情だ。

 特に家庭や運輸、産業領域など都市における社会経済活動からのCO2排出量が全体の過半数を占めている。目標を達成するには都市活動や産業構造の抜本的な改革が不可欠である。

 こうした状況の中、国にならってカーボンニュートラルな都市である「ゼロカーボンシティ」を目指す地方自治体が目立って増えている。環境省によれば、2022年7月29日時点で42都道府県758自治体が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明している。その数は、日本の総人口カバー率で93.9%に上る。

 国・地方脱炭素実現会議も「地域脱炭素ロードマップ」を策定し、2030年度までに100カ所以上の「脱炭素先行地域」を創出するとしている。全国各地でカーボンニュートラル・脱炭素の動きが起こり、ドミノ倒し的に広がることを期待する。

都市のGHG排出量を算定する3つのScopeの概念

 カーボンニュートラルへの取り組みは、産業界では一般に、国際的なGHG排出量の算定・報告の基準「GHGプロトコル」に基づいて進められる。

 GHGプロトコルでは、事業者自らのGHG排出量である「直接排出」だけではなく、事業活動に関係するサプライチェーン全体のGHG排出量である「間接排出」も重視しているのが特徴だ。直接排出を「スコープ1」、間接排出を「スコープ2」、その他の排出を「スコープ3」の3つに分け、これらすべての合計を「サプライチェーン全体の排出量」としている。

 ではゼロカーボンシティへの取り組みは、どのように進められるのか。都市におけるGHG排出量についても同様に、スコープの概念が存在する。WRI(世界資源研究所)の「Global Protocol for Community-Scale Greenhouse Gas Emission Inventories」が、そのための手法の1つである。

 そこでは排出量算定領域を、(1)都市の地理的境界内における活動による直接的な排出をスコープ1、(2)都市の地理的境界内で供給されたエネルギーによる間接的な排出をスコープ2、(3)都市の地理的境界外で生じた排出をスコープ3の3つに区分する(図1)。

図1:都市におけるGHG排出量算定の3つのスコープ(出典:「Global Protocol for Community-Scale Greenhouse Gas Emission Inventories」、WRI、2014年)