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地方でも動き出す「ゼロカーボンシティ」に向けた取り組み【第17回】

藤井 篤之、佐藤 雅望(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年10月13日

 ゼロカーボンシティを実現するには、スコープ2におけるエネルギーの低炭素化やエネルギーマネージメント最適化だけでなく、スコープ1での都市のエネルギー需要の最小化や低炭素化、吸収源の最大化を進めることが不可欠になる。表1のような施策を講じることが求められる。

表1:ゼロカーボンシティの実現に向けた主な施策(WRIの情報をもとにアクセンチュアが作成)
スコープ主な施策
スコープ1・全体:都市機能の集約化(コンパクト化)
・民生:建築物の省エネ性能の向上(ゼロ・エネルギー・ハウス、ゼロ・エネルギー・ビル)、スマートビルディング
・運輸:移動・輸送手段の置換(モーダルシフト)、商用電気自動車・水素化、シェアリングエコノミーの推進、MaaS(Mobility as a Service)化
・廃棄物:サーキュラーエコノミーの推進
・産業:主に建設などでの低炭素化(鋼材・セメントなど建築資材からの排出が大)
・その他:グリーンインフラ推進、域内の産業のカーボンニュートラル全般
スコープ2・地域での再エネ発電、地産地消、マイクログリッド、P2P (Peer to Peer)取引の電力融通、V2G(Vehicle to Grid)など

 これらの施策には、留意すべき点がある。スコープ1において、スマートビルやモーダルシフトなど個別のプロパティの最適化では、個人の行動データの分析・活用が欠かせないということだ。特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、市民の行動パターンの多様化が加速している今、データ分析・活用は不可欠である。

 また都市におけるカーボンニュートラルの取り組みには、複数のプロパティの異なる要素を組み合わせ、さらなる最適化を図れるという特徴がある。そこに、これまでスマートシティが培ってきた都市OSやデータ基盤、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術を取り入れるとともに、事業者や市民などすべてのステークホルダーが協力した推進体制の仕組みを活かしながらGHG排出量の可視化などを進めれば、市民が脱炭素に向けた行動を選択できるようになる。

住民理解で実現が進む蘭アムステルダムやFujisawa SST

 ゼロカーボンシティに向けた取り組みが各地のスマートシティで進められている。既存都市を対象にした「ブラウンフィールド型スマートシティ」と、未開発地での開発を対象にした「グリーンフィールド型スマートシティ」のそれぞれの取り組みを紹介する(ブラウンフィールド型とグリーンフィールド型については第2回第3回を参照)。

ブラウンフィールド型での取り組み例:オランダ・アムステルダム

 ブラウンフィールド型の場合、カーボンニュートラルに対する認知向上や合意形成、意識喚起など、住民を巻き込むことが重要になる。そのためにはカーボンニュートラル以外の付加価値も考慮しながら施策を設計していくことになる。

 オランダの首都アムステルダムは2009年、「アムステルダム スマートシティ プログラム」を策定(第2回参照)。エネルギーマネージメントの取り組みを皮切りに、住民理解を徐々に広げながらカーボンニュートラルの実現に向けた取り組み領域を拡大している。

 これまでに、スマートメーターの導入やスマートビルへの転換、河川・運河を航行する船舶を含めた低炭素モビリティの導入などを積極的に進め、カーボンニュートラルに向けたサーキュラーエコノミー(循環経済)がうまく回っている。アクセンチュアは同プログラムにおけるパートナーの一社として2009年以降、取り組みに関与してきた。

グリーンフィールド型での取り組み例:神奈川県藤沢市「Fujisawa SST」

 グリーンフィールド型スマートシティでは、カーボンニュートラルの取り組みを比較的容易に推進できる。そこで重要になるのが、カーボンニュートラルの最大化に向けた最新技術やプロパティを組み合わせるための設計である。

 神奈川県藤沢市の「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」は、大規模工場跡地を再開発したスマートシティである。企画当初からエネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティの5分野を横断するサービスの提供を目指していた。

 これまでに、3メガワット級という世界最大級の個別分散型エネルギーマネージメントシステムを稼働させている。戸建てのスマートハウスでは現時点でCO2排出量ゼロを達成している。Fujisawa SST全体では各種デジタル技術や機器の導入や活用だけでなく、市民の行動変容も相まってCO2排出量の70%削減を実現している。

 カーボンニュートラルを継続的な取り組みにするため現在は、ブラウンフィールド型スマートシティと同様に、自治体や教育機関、事業者、住民が一体となった街づくりを推進している。アクセンチュアは協議会の一社としてFujisawa SSTの取り組みにも関わっている。

ステークホルダーの理解を深め継続的な関与を促す仕組みが必要

 ゼロカーボンシティの実現に向けた代表的な事例を紹介してきた。だが現時点では、ゼロカーボンシティを表明するもののカーボンニュートラルに向けた具体策を積極的に推進しているスマートシティは、それほど多くないのが実状だ。その背景の1つには、「カーボンニュートラルの取り組みにはコストがかかる」という認識がある。

 しかし、カーボンニュートラルにいち早く取り組むことが、地域全体の活性化につながることは間違いない。そのためにも今後はスマートシティを構成するさまざまなステークホルダーの理解を深め、継続的に関与してもらうための仕組みを作り上げる必要がある。最終的にはQOL(Quality of Life:生活の質)の向上など、住民にとっての付加価値を明確に示すことが重要になるだろう。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

佐藤 雅望(さとう・もとみ)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ サステナビリティプラクティス シニアマネジャー。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。米系コンサルティングファームを経てアクセンチュア入社。公共、民間企業を問わず幅広い業界における変革を支援し、サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルなどサステナビリティに関する戦略立案や新規事業立ち上げに従事している。