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老朽化する社会インフラを可視化するための技術【第19回】

藤井 篤之、廣瀬 隆治、清水 健、米森 俊介(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年11月17日

 予防保全の対象になる社会インフラを特定する技術としては、(1)社会インフラの位置の可視化、(2)ドローン/ロボットを用いた画像解析、(3)インフラの利用状況の可視化と最適化の3つを挙げられる。

(1)社会インフラの位置の可視化

 社会インフラ業界では、設計・施工に関する情報をデジタルデータで管理する文化が浸透していない。個々が必要に応じて紙に印刷し、紙文書として保管しているケースもまだ多い。そもそも情報を管理していない現場もある。

 人力に依存した従来の運用体制によるリスクが特に顕在化しやすいのが、目視ができない地中埋設物を取り扱う現場だ。管理図面の記載と実際の埋設物の位置に相違があり、埋設管を誤って損傷してしまう事故や、予期せぬ地下埋設物が障害となる工事の遅延などが生じやすい。それらが原因になり、さらなる大事故を引き起こすこともある。

 このようなリスクは、地下レーダーを用いて地下埋設物を可視化し、AI(人工知能)技術を扱って2D(2次元)/3D(3次元)モデルを自動生成できれば低減できる。日立製作所は、地下埋設物を車載型レーダーでスキャンし、地図上にセンチメートル単位で表示する「地中可視化サービス」の開発に取り組んでいる(図3)。

図3:埋設している社会インフラを可視化する日立製作所の「地中可視化サービス」の概要

(2)ドローン/ロボットを用いた画像解析

 地中の埋設物同様に厄介なのが、転落等の危険性が高く、安全対策や足場の設置に莫大な費用がかかる高所作業である。このリスクに対しては現在、自律型のドローンやロボットで現場の映像を撮影し、画像解析により異常箇所を特定するための技術開発が国内外で進められている。

 例えば北陸電力では、産業機械メーカーや大学と連携し、ドローンに搭載した4Kカメラで鉄塔のボルトの劣化をセンシングしAI画像診断を行う技術を開発中だ(図4)。完成すれば老朽化している箇所を特定できるようになる。

図4:北陸電力が取り組むAIとロボットを使った送電塔などのメンテナンスの仕組み

 人間が危険を伴いながら作業している配電工事や修理のアシストを、ロボットが代替する運用も目指している。人間が手でアシストしていた電線の把持や切断をロボットが担えるようになれば、1つの現場に配備する作業員の数を削減できる。

 米Doxelは、自社開発したドローンとロボットにLiDAR(ライダー:Light Detection And Ranging)技術を搭載し、屋内外の建設現場を計測した3Dデータを設計時に作成したBIM(Building Information Modeling)と比較することで、進捗と品質を分析する技術を開発している。これにより、ある大規模病院の建設にいて、労働生産性を38%高め、生産コストを11%削減できたという。

 アクセンチュアでは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)センサーで取得できる、さまざまなデータとAI技術を使い、人間が現場に出向かなければ特定できなかった社会インフラの問題箇所を、自動で検知・特定できる遠隔ソリューションを用意している。

 NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公募事業で実施した取り組みでは、プラント設備の画像解析と点検判定の無人化を実現した。人間では管理しにくい高所にある配管の画像から腐食の進行度合いを自動判別する解析モデルと、自律飛行型ドローンを組み合わせ、約90%の評価精度を実現している。

(3)インフラの利用状況の可視化と最適化

 社会インフラが利用されている場所と使用状況を可視化する例に、スペイン・バルセロナ市の取り組みがある。運用の最適化を図るために、街中のごみ箱や、信号機、路面などにIoTセンサーを取り付け、それぞれの使用状況などをリアルタイムで監視する。

 ごみ箱では、満杯になったごみ箱を優先して回収するための最適ルートを算出し、ごみ回収車の稼働率を高めている(図5)。信号機や路面のセンサーからは交通量や路上駐車などを把握し取り締まりなどに利用するほか、人通りの少ない道路では街路灯を減らすなどで照明コストを30%削減した。

図5:スペイン・バルセロナ市によるIoTセンサーを使った取り組みの例

 バルセロナ市の取り組みは、オープンソースのIoTセンサープラットフォーム「Sentilo」を使って実現されている。Sentiloと都市OSを組み合わせて都市インフラの運用を最適化する取り組みは、ドバイ市や神戸市など世界で20以上の都市でも連携運用が始まるなど、地域や都市の枠を超えたスケールで展開されている。

 これら3つの技術領域はすでに実用化レベルに達している。今後は、これらの技術をいかに統合し価値を引き出していくのか、すなわち、社会インフラのデジタルツインの構築が重要になってくる。スマートシティの都市OSに関しても、これらを踏まえた議論を進めていくべきだろう。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

廣瀬 隆治(ひろせ・りゅうじ)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ 通信・メディア プラクティス日本統括 マネジング・ディレクター。東京大学工学部卒、同大学院新領域創成科学研究科修士課程終了後、2004年アクセンチュア入社。5Gを含め、長年に渡り通信・メディア・ハイテク業界を中心に、幅広い業界でAIやIoTの活用をはじめとしたデジタル戦略立案を支援。近年は建設・不動産・ハイテク・自動車・化学などの業界も担当。監修書に『FUTURE HOME 5Gがもたらす 超接続時代のストラテジー』(日本実業出版社、2021年)などがある。

清水 健(しみず・けん)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ プリンシパル・ディレクター。東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程後期修了(工学博士)。ボストンコンサルティンググループを経て2017年アクセンチュア入社。建設業のほか、造船業、航空・宇宙製造業など一品モノのものづくりを中心に戦略からオペレーション構築まで多岐にわたる支援実績を有する。

米森 俊介(よねもり・しゅんすけ)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジャー。総合商社を経て、2018年アクセンチュア入社。グローバルで組織化されているM&Aプラクティスにて、クロスボーダーM&Aを中心に幅広いプロジェクトを経験。近年は通信・建設業を含む社会インフラ事業のDX戦略立案、JV設立、デジタルソリューション開発などのビジネスを支援している。