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老朽化する社会インフラを可視化するための技術【第19回】

藤井 篤之、廣瀬 隆治、清水 健、米森 俊介(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年11月17日

道路、上下水道、電力網といった社会インフラは都市を構成するハードウェアである。その維持・運営は、都市の規模に比例して複雑になる。日本の社会インフラの多くは高度経済成長期に整備され、現在は老朽化が進んでいる。社会インフラの更新が求められる一方で、労働生産人口の減少に伴う作業者の減少が課題になっている。スマートシティを考える際には、社会インフラのスマート化を避けては通れない。

 日本の道路や上下水道、電力網などの社会インフラの多くは、高度経済成長期の「国土の均衡ある発展」の旗印のもとで敷設された。しかし、社会インフラの耐用年数は、公共施設のような建築施設が20〜30年、道路や上下水道といった土木インフラは40〜50年と言われている。国内の社会インフラの多くは今、更新時期を迎えており、道路・上下水道・公共施設の維持管理には2020年時点で15兆円のコストが掛かっている。

社会インフラの維持だけで国交省の予算を超える

 『国土交通省所管分野における社会資本の将来の維持管理・更新費の推計』(国土交通省、2018年11月)によると、国土交通省が管轄する道路・河川・下水道・港湾等の事後保全のための維持管理・更新費は2018年度に5.2兆円だった。30年後の2048年度には最大で12.3兆円、約2.4倍もの維持管理・更新費が必要になると試算されている(図1)。

図1:国土交通省が管轄する社会資本の維持管理・更新費用の推移

 12.3兆円という金額は、国交省の年間予算規模7.8兆円(2021年度)の1.5倍に相当する。しかも、これは上述した社会インフラだけの維持費用だ。空港や鉄道、住宅など国交省が差配する他分野に必要な予算を配分できなくなるということ示唆している。

 日本政府としても、この状況に手をこまねいているわけではない。これまでの事後保全(壊れてから直す)から予防保全(壊れる前に直す)への移行を検討している。一般に、壊れてから直すよりも壊れる前に直すほうが維持管理・更新費は低減できる。国交省の試算では、予防保全に切り替えた場合、2048年度に必要な費用は6.5兆円にまで半減すると見られている。

 社会インフラの維持管理・更新に向けては、作業を担う労働力についても考慮する必要がある。社会インフラの維持管理・更新の現場では現在、国内の多くの産業と同様に、作業員の高齢化問題を抱えている。

 例えば上下水道の維持管理・更新では、現時点で約4割の作業員が50代以上になっており、その多くが今後10〜20年で退職を迎えることになる。新たな人材が維持管理・更新業務をこなせるようになるには一定期間の実務経験が不可欠であり、熟練の技術が失われる前に次世代に継承していかねばならない。

 加えて、日本の社会インフラの維持管理・運営モデルは、人口の増加と経済の発展による右肩上がりの成長期の税収増を前提にしており、成熟期を迎えた現在では通用しなくなっている。しかもシミュレーションでは“平時”しか想定しておらず、災害大国と言われる日本で“有事”の際にどのように対処していくかという観点からも、社会インフラの新たな維持管理・運営モデルが求められる。

予防保全に向けた状態・利用状況の可視化が急務

 老朽化する社会インフラの維持管理・更新においては、状態や利用状況に応じて延命する予防保全こそが必要な考え方である(図2)。人手不足が深刻な現状を鑑みれば、デジタル技術を使って人力だけに依存しない保守運用のためのデータ取得が急務だ。

図2:予防保全の重要性