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スマートシティにおけるデジタル地域通貨の今【第21回】

藤井 篤之、榮永 高宏、清水 嘉紀(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2023年1月19日

スマートフォンの急速な普及に伴い、特定の地域やコミュニティだけで利用できる電子決済手段「デジタル地域通貨」が注目されている。地域経済の活性化を目的に導入され、地域住民の消費・行動といったデータが捕捉・活用されている。スマートシティにおける、さまざまな取り組みとの親和性も高い。今回はスマートシティにおけるデジタル地域通貨の取り組み事例を紹介する。

 「地域通貨」とは、特定の限られた地域やコミュニティに限って利用可能な決済手段であり、地方自治体や商店街、企業・非営利団体(NPO法人)などが独自に発行するものを指す。日本では1990年代にアジア通貨危機を端緒に、オルタナティブ(代替)マネーの議論が始まったことを受け、新たな決済手段として注目されるようになった。

 1999年、地域経済の活性化や個人消費の喚起を目的に、発行元の市町村に限定して利用可能な「地域振興券」が交付された。そこから着想を得た地域通貨の発行数が2000年代前半に急増する。全国各地で毎年50種類前後が立ち上がり、2005年には全国で300種類以上にまで稼働数が増えた(『2021年地域通貨稼働調査の結果について(速報)』、2022年9月、専修大学 泉留維教授・明治大学 中里裕美准教授)。

 ところが日本の地域通貨は、2005年をピークに徐々に稼働数を減らしていく。減退した理由としては、当初の地域通貨は商品券やギフトカードに近く換金性がなかった、発行や管理にかかるコスト負担の割に利用が拡大しなかった、地域通貨よりも利便性の高い電子マネー(交通系・流通系ICカード)が普及した、などが考えられる。

地域通貨からデジタル地域通貨へ

 それが2010年代に入り転機が訪れる。スマートフォンの普及によりバーコードやQRコード(2次元バーコード)を使ったデジタル決済手段が登場し、コストをかけずに地域通貨を導入できるようになった。ブロックチェーン技術が確立し管理の分散化が容易になったことも地域通貨が息を吹き返した理由である。

 上述した調査によると、2022年末現時点で稼働中の地域通貨は約180種類にまで減少したものの、デジタル技術を応用した「デジタル地域通貨」の登場により、運用が軌道に乗った成功事例が少しずつ出始めている。日本国内におけるデジタル地域通貨の成功事例を2つ紹介する。

国内事例1:飛騨・高山地域の「さるぼぼコイン」

 「さるぼぼコイン」は、岐阜県の飛騨信用組合が飛騨・高山地域(飛騨市・高山市・白川村)で発行するデジタル地域通貨である。スマホに専用アプリケーションをインストールし、そこにコインをチャージして利用するプリペイド方式を採用している。2022年6月末時点の利用者数は約2万5000人、加盟店数は約1900店で、累積決済額は約60億円に上る。

 さるぼぼコインの特徴の1つは、加盟店には利用手数料の負担がないことだ。その代わりに、コインを換金する際に1.5~1.8%の手数料が徴収される。加盟店同士のB2B(企業間)決済時にも、0.5%の送金手数料が発生する。

 デジタル地域通貨の成功事例として取り上げられることが多い、さるぼぼコインだが、立ち上がったのは2017年12月と古い。民間主導の主要なキャッシュレスサービスが普及する前に地域のキャッシュレス需要を取り込めたことが今の成果につながっている。

 ほかにも、さるぼぼコインでしか取引できない“裏メニュー”を用意してコインそのものの需要を高める工夫をしたり、デジタル回覧板や災害関連通知など地域の情報発信を担う機能を備えたりしている点も成功要因といえる。

国内事例2:千葉県木更津市の「アクアコイン」

 「アクアコイン」は、千葉県の君津信用組合と、木更津市、木更津商工会議所の3者が連携して運営する木更津市のデジタル地域通貨である。さるぼぼコインと同様、スマホに専用アプリにインストールし、コインをチャージして利用するプリペイド方式を採用している。

 2022年9月末時点のアプリのインストール数は約2万5000人、加盟店数は約800店で、累積決済額は約10億円である。ビジネスモデルも、さるぼぼコイン同様に、加盟店からは決済手数料を取らずコインを換金する際に1.5~1.8%の手数料を徴収する。

 アクアコインのサービス開始は2018年10月で、キャッシュレスサービス「PayPay」とほぼ同時期である。アプリ利用者には限定メニューを用意するほか、ボランティア活動やセミナーへの参加、健康増進活動に対して付与するポイントを加盟店で使えるといった仕組みを取り入れている。

スマートシティの決済にはデジタル地域通貨以外からのアプローチも

 スマートシティにおいては、デジタル地域通貨以外からも決済周りのサービスが提供されている。そこでの取り組みは、デジタル地域通貨を普及させる際の参考にもなる。