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スマートシティにおけるデジタル地域通貨の課題と挑戦【第22回】

藤井 篤之、榮永 高宏、清水 嘉紀(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2023年2月2日

施策1:行政と連携する“強制的”な規模の確保

 デジタル地域通貨を発行した初期の段階では、決済インフラの整備や非金銭的インセンティブの開発援助といった積極的な助成金投入が必要である。規模をスムーズに拡大するためには、決済機能を充実させる投資やプロモーション、金銭的インセンティブに頼らない特典の開発援助に予算をつぎ込むことが求められる。

 家計にデジタル地域通貨が流入する流れをつくるためには、賞与の一部をデジタル地域通貨払いにするといった制度の奨励も考えられる。これは仕組みづくりの面、あるいは利用者の心理的な面でのハードルが高いが、成果は得られやすい施策だといえる。

 このほか、行政が主導して住民税や法人税などの納税や、公共施設の利用料、各種手数料といった公金決済への適用も推進すべきだろう。

施策2:循環を意識した機能づくりと金融機関との連携

 デジタル地域通貨の持続的な利用を実現するには、消費者から事業者への決済だけでなく、消費者から消費者への送金機能を用意することが重要である。

 事業者に地域通貨が溜まってしまうことを防ぐためにも、事業者から消費者に通貨が戻るような「加盟店チャージ機能」や、地域内の事業者同士がデジタル地域通貨で取引できる「B2B決済機能」を備えデジタル地域通貨のまま循環させることを促進しなくてはならない。

 加えて、地域外事業者との取引時に「リアルマネーへの自動両替機能」を用意するなど、地域外とのやり取りを可能にするようなアイデアも検討の余地があるだろう。当然、それらの利用を促すために認知度向上のプロモーションも必要になる。

施策3:金銭的インセンティブに頼らない持続可能な利用率向上施策

 より多くの人に利用してもらうためには、高い還元率など金銭的なインセンティブに頼らず、地域住民だけでなく地域外から訪れる観光客向けにも地域全体で魅力的な限定品や限定サービスを用意する必要がある。これらは各事業者単位の努力だけでは限界があるので、地域における包括的な支援制度が必要だ。

 そこでは、限定品や限定サービスが過度に重複しないような管理や開発費の援助など、自由競争を担保しながら地域が積極的に支援することが大切である。

施策4:正確なデータを捉えるための工夫

 地域事業者に対してPOS(販売時点情報管理)システムの導入を支援し、POSデータと地域通貨システムとの連携を図ることで、売上情報や商品情報、購買情報など加盟店サイドで把握できる情報と、通貨運営主体が把握できるID情報をデジタルデータで紐づけできるようになる。市場に散在するデータを1つにまとめることで、加盟店(地元企業)に対し、精度の高い市場分析やマーケティングに活用可能な情報を提供できる。

 他の大手モバイル決済手段をミニアプリとして実装し、デジタル地域通貨アプリの魅力を高めるといった工夫も必要かもしれない。他の決済手段が使われた場合でも、地域通貨アプリ経由の利用であれば最低限の情報を取得できる。他の決済手段が使われている場所や購買情報を集めることで、デジタル地域通貨に乗り換えてもらうための施策検討の参考情報にできるだろう。

 さるぼぼコインやアクアコインは、これら施策への取り組みに挑戦し始めている。加盟店への決済手数料を無料にし、リアルマネーへの換金とB2B決済時に手数料を徴収する方法は、デジタル地域通貨の普及と環流を考えたビジネスモデルである。

 ただし、B2B決済など認知度や利用率が低い機能があるほか、捕捉・収集したデータの活用については具体的な道筋が見えていない。これらは今後のさらなる挑戦項目である。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

榮永 高宏(えいなが・たかひろ)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。慶應義塾大学卒業後、アクセンチュア入社。金融・金融参入企業を中心に、中期経営計画、金融参入戦略、デジタル活用戦略(Blockchain、IoTなど)、事業戦略、M&A、マーケティング戦略などに多数従事。

清水 嘉紀(しみず・よしき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジャー。東京大学大学院卒業後、アクセンチュア入社。ストラテジーグループにて金融業を中心に、昨今は非金融事業者の金融参入も含め、新規事業戦略、中期経営計画、業務改革など幅広い戦略プロジェクトに従事。