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スマートシティにおけるデジタル地域通貨の課題と挑戦【第22回】

藤井 篤之、榮永 高宏、清水 嘉紀(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2023年2月2日

電子決済手段として特定の地域やコミュニティだけで利用できる「デジタル地域通貨」が注目を集めている。前回は、成功しているデジタル地域通貨の事例を紹介した。しかしデジタル地域通貨が広く受け入れられるには、解決すべき課題も少なくない。今回はスマートシティにおけるデジタル地域通貨の課題と今後の挑戦について考えてみたい。

 前回、成功しているデジタル地域通貨として、「さるぼぼコイン」と「アクアコイン」を紹介した。ほかにも、一定の成果を上げている事例はいくつも存在する。これからの地域通貨のメインストリームとして期待されるデジタル地域通貨には、いくつかの特徴がある。

 特徴の1つは、多くのデジタル地域通貨が決済方式に「MPM(Merchant Presented Mode)」を採用することで、紙の地域通貨券にしか対応できないような小規模小売店でも、デジタル地域通貨を受け入れられるようにしていることだ。

 MPMは、専用の装置を必要とせず、店舗側が用意したバーコードや「QRコード」(2次元バーコード)を利用者のスマートフォンで読み取って決済する方式である。一般的なキャッシュレス決済では、利用者のスマホ画面に表示されたコードを店舗のリーダーで読み取る「CPM(Consumer Presented Mode)」を採用しており、小売店側に機器の設置を求める。

 もう1つの特徴は、デジタル地域通貨は特定地域において「消費・行動に対するインセンティブを付与できる」ことと、デジタル地域通貨の流通にかかわる「さまざまなデータを捕捉できる」ことである。これらのメリットにより、個人消費の喚起や、市民相互扶助の促進、地域の課題解決といった役割を持たせられる。

流通量を広げるための課題が少なくない

 しかし、これらのメリットを活かすには課題も少なくない。例えば、消費・行動に対するインセンティブの付与については、そもそも流通量(経済規模)が小さいという課題がある。

 経済規模を拡大するためには、住民に対する“入り口”と“出口”の課題解決に取り組まなければいけない。具体的には大手キャッシュレス決済事業者と対抗できるだけのポイント還元率を用意するなど、より多くの人にとって魅力的なインセンティブが必要だ。地域通貨でしか入手できない限定品などを提供する場合には、それが利用の動機になっているかを見極めることが求められる。

 ただし、魅力的なインセンティブが金銭的インセンティブ(高還元率など)の場合は財源が、非金銭的インセンティブ(限定品や限定サービスなど)の場合は工数や間接コストが、それぞれかかる。いずれも持続的な提供を難しくする課題である。

 さらに、「使える店が限られる」「EC(電子商取引)では使えない」「納税には使えない」といった不満も解消する必要がある。加えて、デジタル地域通貨のまま換金されずに使われ続けるように、デジタル地域通貨の回転率を高め「消費者 ⇒ 事業者 ⇒ 消費者」といったサイクルの構築が望まれる。

 一方、データの捕捉については、「決済店、金額、日時」といったデータだけでは有用な分析結果を得るだけの情報が足りない。一方で購買データまでを取り込むには加盟店のシステムと連携させる必要がある。そこに「誰が買ったか」という個人情報が含まれると、利用者から許諾をとらねばならない。そもそも地域通貨を使っていない消費行動は把握できないという課題もある。

 これらの課題は一朝一夕では解決できない。それだけにアクセンチュアでは、少なくとも以下のいずれかに取り組む必要があると考えている。